こんなフランスワインを探してた!
「フランスワインは、どれも旨い。でも、誰もが知る産地のワインは、高すぎてもう手が出ない……」と悩む人は、フランスでもコスパのいいワイン産地があると知ろう。ちょっと探すだけで、すぐフランスの南に位置するオクシタニーにたどり着く。有名なワイン産地であるボルドーやローヌと地続きのオクシタニー。近隣と常に比べられてきたことが、今は彼らの強みとなっている。
取材・文/山本ジョー 記事協力/オクシタニー地方観光局 写真/G.DESCHAMPS – CRTL Occitanie
写真/G.DESCHAMPS – CRTL Occitanie
ボルドーを飛び越えろ!反骨のガイヤック
未体験のフランス地場品種を探すには、ガイヤックワインがもってこい。
ベネディクト派の僧たちがシュッドウエストのガイヤックに居を構えブドウ畑を広め始めたのは970年。ガイヤックがワイン産地として長く存続できた理由にも、なのに知名度がなかなか高まらなかった理由にも、深く関係しているのはボルドーだ。
その昔のガイヤックワインは、まず川の船へワイン樽を載せて下流のボルドーへ運び、ボルドーからフランス国内外へ運ばれていた。まだトラックや鉄道が普及していない頃、すでに名声を誇っていたボルドーは強気だった。販売ルートを確保するボルドーの卸業者には、足元を見られて低い値で交渉されるばかり。業者の保管状態も不透明で、ガイヤックワインの生産者たちは、変質の不安を抱えながら自社ワインの旅立ちを見送っていた。 そんなボルドーの影に甘んじていたガイヤックの在り方に一石を投じたのが、シャトー・ラストゥールのユベール・デ・ファラモンさんである。
シャトー・ラストゥールの復興に尽力、ガイヤックワインの販売ルートに風穴をも開けたユベールさん。
単身での販路開拓で一発逆転
好々爺然としているユベールさんだが、若い頃は辛酸をなめ尽くした。第二次大戦後に家屋が火事に見舞われ、ワインの瓶詰ができず再建の資金もない状態に陥ったユベールさんたちは、ひとまずリンゴ栽培と鶏卵で細々と生計を立てつつ、ユベールさん自身はトゥールーズでワインの卸会社に勤務。しばらくしてユベールさんは父と一緒にワイン造りを再開し、旧来のボルドーを介した販売ルートからの脱却を図る。ガイヤックワインの生産者としては初めて海外へ飛び、直談判でワインの直接販売ルートを確保したのだ。
赤ワインはボルドー系品種のカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロをブレンドしつつ、メインに地場品種のブローコル、デュラ、シラーを据える。
「家を売り渡す話も出ていたほど資金繰りは危うかったのですが、なんとか待ってもらって乗り越えました。ベルギーやオランダの業者には『南からワイン生産者がわざわざやってきた』と歓迎してもらえ、今日までお互い家族三代に渡る付き合いを続けています」
民泊ブームをコルビエールの後押しに
さて、ガイヤックからさらに東へ。ペイ・ド・キュキュナンの産地を代表する生産者たちが集う生産者協同組合「カヴォー・ド・キュキュナン」の施設が建てられているのは、山間の小さな村、キュキュナンだ。施設に1歩入ると、赤、白、ロゼと多彩なワインがズラリと並ぶ。エリアによって土壌や標高にバリエーションがあるので、味わいも千差万別だ。教会は1軒、パン屋も1軒。ローカル色の強い村に、なぜ試飲や購入のできる一般人ワイン施設が……と疑問に感じるが、じつは近隣に「近々世界遺産に認定?」とウワサされるケリビュス城やペイルペルチューズ城がある。城見学の観光客は、ついでにキュキュナンへ立ち寄りワインを楽しめるというわけだ。
ケリビュス城 キリスト教で異端とされたカタリ派が徹底抗戦を繰り広げたケリビュス城。山頂にそびえる堅牢な城塞はマチュピチュの遺跡をも思わせる。写真/G.DESCHAMPS – CRTL Occitanie
高級志向でなく上質志向が成功のカギ
生産者たちは随時カヴォー・ド・キュキュナンで顔を合わせ情報交換を行うが、今のところ超高級ワインを造ろうとの動きはない。
「フランスなら、わりとどこにでも高級ワインがあるものですよね。コルビエールのワインは、土地に伝わる歴史、自然環境保護も含めて打ち出していきたいだけ」
と語るのは、生産者組合の副会長であるミシェル・ラリゴラさん。
コルビエールには鉱山があり、住民たちは採掘した鉄や銀で武器や貨幣を作って中世から自立してきたとの自負がある。キュキュナンに設けられたワイン施設もまた、コルビエールワインの情報を発信し知名度を高めることで、界隈の経済はさらなる自立を果たしている。おかげで今はコロナ禍をやすやすと乗り越え、観光とワインが主な収入源だという。
施設に集まる生産者たちは皆、商売人でなく農民としての矜持を持った話しぶりが印象的。
ところでオクシタニーには、ワイン業界全体をグイグイ引っ張り上げるパワーを持つスターがいる。彼らの話は、次Part3でとくと語っていこう。