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「Why not? マガジン」が注目している最旬な方にインタビュー Vol.02前半

内藤裕子さん/フリーアナウンサー 前編

カレーってその人の生きた証が詰まっているからおいしい もうずっとカレーに夢中です

インタビュー/麻未(mami) 写真/小松勇二

Why not?が今、注目するさまざまな分野の方にインタビューする第二弾はフリーアナウンサーの内藤裕子さん。「右手にカレースプーンを」「左手にマイクを」というカレー道を邁進するカレーアナウンサーなのである。前後編に2回に渡って彼女が突き詰めているカレーにまつわるあれこれ聞きました。前編は意外と知らないカレーは日本人にどうしてこんなに愛され国民食になったのか?

カレー好きのルーツは戦前の陸海軍にあり!

麻未)日本人はカレー好きといわれていますが、その理由は何だと思われますか?

内藤)日本人がカレー好きなのはやっぱり美味しいからですよね。もうそれに尽きるんですが、そう言ってしまうとこのインタビューも終わっちゃうんで(笑)、歴史的な要素といくつかの側面で考えてみたいです。

軍隊でカレーが作られ、食べられ、国民食としてカレーが広まっていった。そして戦後は給食にカレーが導入され、子ども達にどんどん人気になって広まっていったというのがまず1 つの大きな要素といわれています。

そもそも、カレーはインドからイギリスを経て日本に伝わりました。インドのカレーはスパイスの集合体なんですね。その後、イギリスで19世紀に「カレー粉」が生まれて日本にも輸入され、洋食店ではカレールウを簡単に作れるようになりました。

日本人はアレンジすることが上手だと言われていますよね。なので、日本に伝わったカレーにも、どんどん日本らしさが加わっていきます。日本人のカレーの定番「ジャガ・玉・人参の三種の神器」も日本で生まれたものなんですよ。

もちろんアレンジはそれだけではなく、隠し味にチョコレートを入れたり、コーヒーを入れたり。さらには「蕎麦屋のカレーうどん」や「カレー南蛮」など、日本の「だし」とスパイスを組み合わせて日本進化型カレーを生み出しているんです。カレーパンも日本で生まれたものですよね。そう考えていくと日本人は非常にアレンジが上手なので、アレンジ力でカレーがここまで国民食になったのかもしれないですね。

日本人の国民食「カレー」の定着は日本のアレンジ力と開発力

麻未)カレーは旧陸海軍の食事から家庭に浸透して、戦後は給食に導入。アレンジ力を生かしながら、こうして国民食になっていったとは興味深いですね。

内藤)そうなんですよ。もう一つ「国民食としてのカレー」を説明するうえで欠かせないのは、やはり日本で誕生したカレールウの存在といわれています。1960年代のまさに高度経済成長期にさまざま種類のカレールウ(固形ルウ)が誕生しました。

固形のカレールウが出始めた頃、洗濯用の石けんと間違えて、洋服を洗ってしまった人もいたなんていうエピソードも残っているんですよ(笑)

興味深いのは、それまでカレーは「辛く大人が食べる」というイメージだったんですね。

それが 1960年代に子どもも食べられる甘口のカレーが誕生し、家族が一つの鍋で同じカレーが食べられる画期的なカレーとして注目を集めることになったんです。

こうして見ていくと、私は1960年代の様々な種類の固形のカレールウ誕生も、カレーが広く家庭に浸透し、カレーが国民食になったキーポイントではないかと思うんです。ちなみにこの固形ルウも日本で生まれたものなんですよね。

父親が作ってくれたスパイスカレー

麻未)日本人のカレー好きの背景はとても興味深いお話でした。内藤さんご自身がカレーを好きになられたきっかけは何ですか?

内藤)きっかけは父が作るスパイスカレーでした。週末になると、父がきょうはカレーを作るぞ!と気合を入れて、キッチンにクミン、カルダモンにクローブ、シナモンの香りが立ちこめるんです。

麻未)何歳ぐらいの頃ですか?

内藤)10 代ですね。父は休日になると作ってくれて、スパイスが効いたガツンとしたカレーでした。必ず隠し味があって、今日はハチミツを入れたとか、コーヒーを入れたとか。チョコレートをちょっと入れてみたとか。何かこう「俺流」のこだわりがあったんです。母が作るカレーと父の作るカレーは違うなって子ども心に思っていました。しかもそのスパイスカレーを食べると汗が出て、スカッとして、その爽快感がたまらなくて。焼肉を食べた時の感じと似ているなと。元気が出てハッピーホルモンが出るという感じ。カレーって面白い食べものだなと思ったんですよ。

私は個人的に「カレー運」って言っているんですが、カレーを食べるとすごい運気が上がるような気がして。ハッピーオーラも出るし、前向きでポジティブになる!「おいしい」って言ったら、それでみんな笑顔になるし、運気も上がる。それがカレーだなって、どんどん好きになっていきました。

「あさイチ」の初代リポーターを2010年から担当していた時、ロケバスに乗ってロケに出かけていました。初対面が多いですからぎこちない感じもあるんですが、カレーの話になるとグッと距離感が縮まって、親しくなるみたいな感覚もあって、カレーってコミュニケーションツールだなぁと思ったんですね。これまでの様々な体験が結びついて、「カレー、非常に興味深い」と思っていました。

麻未)どういったことから、カレーを勉強するように?

内藤)それが不思議なことに、2017年にNHKを退局後、1本の電話から、カレーの世界の扉が開きました。

知人から電話で「確かカレー好きだよね?カレー大学院がその年の9月から始まるから行ってみたら」って言われたんですよ。

私としては、時間もあるし、カレーを体系的に勉強したら、また違う筋肉が鍛えられるんじゃないかと思って行ってみることにしたんです。

カレー大学院では、カレーの歴史やスパイス、調理方法など、半年間、多角的にカレーのことを勉強しました。

そこで私がやっぱり一番惹かれたのは、そのカレーの背後にある人間ドラマだったんですね。作り手の思いやマインドがその商品の中に込められていて、そういうものを知れば知るほど惹かれたんですよ。「NHKの朝ドラになりそうだな」って思いましたね。例えば、カレー粉 です。イギリスで 19 世紀に生まれたものが日本に入ってきて、当初はかなりの高級品で手の届かないものでした。

その後、国産のカレー粉を作ろうと、先人たちが、スパイスをかき集め、試作を重ね、日本人の味覚に合うものを追求して開発していきました。そうした計り知れない苦労や努力があって、国産のカレー粉が誕生したんですよね。そうしたカレーの功労者の方々の存在を忘れずに、深く味わいたいと思うようになりました。

次回はカレー道を究めていく中で、自分でカレーのレトルト完成に辿り着くまでを伺います。

インタビュー後編ha

後編はこちら、 NHK対局後、カレー大学に進学!そして、さらにカレー愛は深く、夢中の沼にはまっていく

内藤裕子さん  1999年アナウンサーとしてNHK入局。『あさイチ』『ニュース7』など報道・生活情報番組を中心に活躍。ナレーターとして、朝の連続テレビ小説『わかば』、大河ドラマ『篤姫』紀行、NHKスペシャルなどを担当。2017年退局、18年カレー大学院卒業。現在アナウンサー業のほか、レトルトカレーのプロデュースやレシピ考案も行う。著書に『内藤裕子のカレー一直線!!』(池田書店)

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