お酒を自由に楽しみ、セレンディピティな出会いを

WINE

紫貴あきの「今夜」ワインが飲みたくなるはなし 「パイスは同窓会マジックからの、 マイフェアレディなワインへ変身中 」

4rd glass of wine
「アテルシオペラド」と「ブション パイス・サルヴァヘ レッド」

「今度の同窓会では、皆をあっと言わせるのよ。わたしは、もう田舎娘じゃないの」
パイスから造られた赤ワインをグラスに注ぐたび、そんな声が聞こえる気がするのです。

同窓会マジック

分厚い眼鏡に、さえない髪型だった同級生。ところが、数年ぶりの同窓会で再会したら、すっかり垢ぬけて、都会のイイ女風になっていた………。これぞ「同窓会マジック」。再会したら素敵女子に変身していたというのは、どうやら映画やドラマだけではないようです。

そして、もし、この大変身した同級生をブドウ品種に当てはめるなら、ずばり黒ブドウ品種パイスといえるでしょう。

ヒロイン、パイスの生い立ち

パイスはチリにおける初のワイン用ブドウです。マプーチェやインカ帝国の時代には、チリにはワイン飲酒文化はありませんでした。16世紀、スペイン軍到達後、宣教師が携えてきたブドウ品種がパイスだったのです。その後、パイスは田舎酒「チチャ(発酵を途中で止めた酒)」を造るのに用いられ、地元でガブガブ消費されるのみでした。

パイスの房は超巨大。ワイン用のブドウとは想像がつかない形状です。ワインは色が薄く、すっぱい味わい。おまけにタンニンもざらつき、香りは果物よりも土っぽさが際立ちます……気取らずデイリーに飲むには良いけれど、「洗練」「優雅」という言葉とは程遠い印象でした。

「パイス」は場所によってはブッシュに自生しているPaisなので人手でブドウを探しながら、ハシゴ上ったりして収穫する地域もある。

スタイリッシュなパイスへ

しかし、そんなパイスも、ここのところ、すご腕醸造家たちの手によって、すっかりスタイリッシュなワインへと変身し、輸出市場において、専門家や玄人の心を鷲掴みにしているのです。もちろん、田舎臭さ解消のためには、ひと工夫必要です。

国際品種を少量加える

少量の国際品種をブレンドすることで、色の濃さ、フルーティーさが加えられます。おまけに、タンニンも滑らかな印象になるため「一石三鳥」です。 ヴィーニャ・モランデでは、パイスに少量のマルベックを加えます。ボイスンベリーの香りと、ヴェルベットのような滑らかなタンニンはマルベックの影響でしょう。実際、ワイン名の「Aterciopelado(アテルシオペラド)」は「ヴェルベットのような」の意味です。

アテルシオペラド 2021/ビニャ・モランデ
チリ/D.O. マウレ・ヴァレー
品種/パイス 80%、マルベック 20%
希望小売価格/6,000円(税抜き)
輸入元/英和商事

全房発酵

世界一高いピノ・ノワール、DRCと同じ「全房発酵」という手法(梗を取り除かないで房ごと醸す)でワインを醸します。この手法でワインを醸すと、フレッシュで、おまけにフルーティーなワインになります。

これを行う代表選手が、ブションの「Pais Salvaje(パイス・サルバヘ)」です。さらに野生化したパイスに、はしごをかけて収穫しているというから驚きです。パイスだったらどの樹でもいいわけでなく、上質ワインを造るためには、ブドウ樹の見極めが大切です。まさに奇跡の1本と言ってもいいでしょう。

ブション パイス・サルヴァヘ レッド 2021/ブション ファミリー ワインズ
チリ/マウレ・ヴァレー
品種/自社畑内の野生のパイス 100%
希望小売価格/2,700円(税別)
輸入元/WINE TO STYLE

毎年、進化する
造り手に話を聞けば、パイスの栽培・醸造は現在も試行錯誤中だとか。ブドウ樹の選択、ブレンド比率、巨大な房を一部切り落としてしまう………などなど。なるほど、これまでも、毎年、品質向上を感じていたのも納得です。この進化のペースなら、きっと数年後には、もっと上質なパイスが飲めるはずです。

未来のパイス
さらに数年後の同窓会で、パイスがさらにイイ女になって現れたら、きっと、懐かしさ、驚き、動揺、羨望………いろんな感情が渦巻くに違いません。
そんな「未来のパイス」を想像しただけで、今からワクワクが止まらないのです。

「今夜ワインが飲みたくなるはなし」バックナンバー
「ボデガ・イニエスタ」
「ワインにもナツメロ的なものがある」
「絶滅危惧品種が奇跡の復活、人気品種に!」

紫貴あき(しだかあき)氏
ワイン講師J.S.A.認定ソムリエ・エクセレンス/第10回J.S.A.ワインアドバイザー全国選手権大会 優勝。
大手ワイン専門輸入商社にてマーケティングを担当。退社後はカリフォルニアでワインを勉強し、現在は、レッスンや執筆活動を通じてワインの魅力を伝えている。2024年3月にはKADOKAWAから「ゼロからスタート!ソムリエ1冊目の教科書」を出版予定。

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
紫貴あき

ソムリエ | ワイン講師 日本最大級ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の人気講師。 丁寧なレッスンは、 初心者から上級者まで わかりやすいと評判。 著書に『ゼロからスタート!紫貴あきのソムリエ 試験』( KADOKAWA)。この夏には、かんき社から『ワイン図鑑』を出版予定。

  1. 紫貴あきの「今夜」ワインが飲みたくなるはなし イタリア地場品種「アルネイス」が注目されている

  2. 紫貴あきの「今夜」ワインが飲みたくなるはなし Yes, More Pink, More Happy! 飲み方に縛られない自由なワイン、それがロゼ

  3. 紫貴あきの「今夜」ワインが飲みたくなるはなし 天才レオナルド・ダ・ヴィンチが愛したワイン

RELATED

PAGE TOP