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INTERVIEW

じだいをかえる、かわりものたちのおはなし SAYAKA ASAI

NEW BLOOD✙ Vol.06 SAYAKA ASAI

アーティスト/氷染色家

ユニークな生き様を貫くには、相当の覚悟と勇気が必要だ。
体内にたぎる血の赴くまま、既存のカテゴリにハマらぬ道を突き進む改革者たち。
彼らの描く刺激的な未来図を垣間見れば、自分たちも何か動き出したくなる。

文/山本ジョー

溶けゆく氷で創る、シャブリの世界観


ワインをアートにしたら、どんなかたちになるのだろう。
ブルゴーニュワイン委員会が2023年に日本で初めて開催した「シャブリワインアートアワード」は、日本人にも馴染みがある白ワイン、シャブリを立体作品に仕上げるのがテーマ。
芸術やワインの専門家たちの審査を経てトップ3のひとつに選ばれたのが、SAYAKA ASAIの作品『Esprit de Chablis』だ。
牡蠣の貝を漉き込んだ紙に凍らせたシャブリをのせ、溶けゆくままに湿らせたうえで半球状に成形させたオブジェである。

唯一の日本在住マスター・オブ・ワインであり、「シャブリが世界で一番好きなワイン」と断言しつつ審査員に任命された大橋健一は、最終審査会の時点で「この作品の作家は、きっとワイン好きに違いない」と看破していた。
紙の質感が「まさにシャブリの土壌」、形状が「硬さと優しさを併せ持つシャブリらしい味わい」を的確に表現していたからだ。
アワード表彰式のため居住地フランスから急遽帰国したASAIは、あらためて大橋から直接「ワイン好きでしょう?」とのコメントを受け、会場で思わず吹き出してしまった。
「はい、私、その通りワイン好きでしたので」。

美大2年生で氷染色家への道を拓く


すでにひとかどのアーティストでありながら、コンクールやコンペティションに挑み続けるのは、「新しいインスピレーションが得られるから」なのだという。
シャブリの立体作品を完成させたのも、平面作品を主に手掛けるASAIにとっては新しい試みだ。
フランス在住の彼女がパリにて展示会への出品をスタートさせたのは、2018年。
以降、アートを発表するだけでなく、レストランのメニュー、映画の衣装、本の装丁、企業ロゴ、商品パッケージまで、デザインと監修の活動は多岐に渡っている。
「どの方も『ASAIだったら何とかしてくれるだろ』と思ってくれるらしい……。実際、人から頼まれたら、うれしくなってなんでも引き受けちゃうんです」
すべてに共通するのは、自ら編み出し日本で特殊技法デザイン特許を取得した「氷染色」である。
この技法は武蔵野美術大学2年生時、授業の課題提出を前に苦戦しているなかで思いついた。
ふと手元にあった氷を使い、溶かして布に染ませると、色が滲み、ラインは揺らぎ、グラデーションがゆっくりと変化していく。
不完全さや偶然性への興味が尽きないASAIにとって、氷は「しっくりくる」マテリアルだと感じた。
とはいえ、すべてを氷が溶けるままに任せるのではなく、氷の質、位置、タイミングをコントロールすれば、自分のイメージするものにも近づけられる。
そんな発見を資料にまとめて教授にプレゼンしたところ、即座に「特許庁へ行ってらっしゃい!」と激励された。

ASAIさんが手がけたレストランのメニュー、本の装丁

なお、不純物が入った氷を使った作品は、ピュアな水を凍らせたものと比べてまったく違う模様が現れるのだそう。
おかげで、氷の原料である水にも多様性を求める日々を送っている。
と同時に、氷を扱う表現者として、水にまつわる環境問題へも意識が向くようになった。
「湧き水を凍らせることもあるし、雹が降ったらボールを持って外へ雹を取りに行って即座に染めることも。加えて、冷凍庫に保管し氷コレクションもします。雪となると今度は滲みが出づらいのが難点ですが、そういったサイエンス的な要素も含め、自然の恵みが作品に繋がっています」

アートの国フランスで得られた確固たる自信

https://happyproject.asahibeer.co.jp/Page/fruits-presso.aspx

いっぽうプライベートでは、フランス人パティシェのパートナーと出会い、独立し店を出すエリア探しを兼ねてフランス一周の旅を敢行中。 大好きなワイン畑を訪ねたり、名だたる画家のアトリエに訪れたり、と旅するように生きるライフスタイルは日々のアートへ刺激的なアイディアを与えている。

いつかは氷の大地を丸ごとキャンバスに

ASAIは作品制作のみならず、制作の過程を観客に観てもらうインスタレーション、アートパフォーマンスにも力を入れてきた。
「完成後の作品も美しくありたいのですが、自分としては氷から染まっていく『時間』が一番美しいなと思っています。空気や匂いを含めてある瞬間を閉じ込めた氷との対話。それは、自分との対話の時間でもあります。私がインスタレーションを積極的に行っているのは、その時間の愛おしさも観客に感じてほしいからなんです」
インスタレーションは、観客のリアクションにお国柄が出る。
フランスでは多くの観客が激しく話しかけ、ときには制作の手が止まるほど。
日本では皆が静かに鑑賞し、制作が終わっても声掛けは遠慮されがちだ。
そんな違いも面白がりながら、ゆくゆくは地球全土でインスタレーションして回りたい、とASAIは願う。
「たとえば、氷といえばアイスランド。アイスランドほど氷の多い地域なら、大地を丸ごと作品にするランドスケープ・アートができるでしょう。大きな予算をかけ、1年間かけるくらいの巨大プロジェクトに、いつか取り組んでみたいものです」
冷たい氷が、野望を激しく燃やしていく。

https://sayakaasai-jp.mystrikingly.com/
https://www.instagram.com/sayakaasai.icedye/

SAYAKA ASAI 展示会情報:
2024年2月9日〜2月12日 グループ展 (フランス/ベルビニー)
Bellevigny.32 ème SALON ARTISTIQUE

2024年2月27日〜3月9日 個展(フランス/パリ)
https://www.tenri-paris.com/ecbp/expositions

  • 記事を書いたライター
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山本ジョー

ライター。2000年よりワインや食にまつわるテキスト制作を請け負ってきたが、ときおりタレント本や鉄道本にも携わる。 畑で細々と野菜を作り、猟師から獲物を分けてもらうカントリーライフを堪能中。 好きなものは旅、犬、カジュアル着物。 小型船舶免許1級を取得して以来、船の操縦経験ゼロ歴を更新し続ける「なんちゃって船長」でもある。

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