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WINE

黄金、バラ、そしてワイン ブルガリアってどんな国?

日本人によく知られているブルガリア名物といえば、まずヨーグルト。ブルガリア出身の有名人を挙げようとすると、大関まで昇りつめた力士の琴欧州、現・鳴戸親方あたりか。でも、さらにブルガリアを語るためには「黄金」「バラ」「ワイン」が欠かせない。日本ではまだまだミステリアスなブルガリア、ちょっとだけ深堀りしてみよう。

酒の神ディオニソスはブルガリア発祥

ユネスコ世界遺産のひとつ、ブルガリア正教会のリラ修道院。

ブルガリアのユネスコ世界遺産は、文化遺産と自然遺産を合わせて10。
また、東南部にあるペルペリコン遺跡からはディオニソスを祀った神殿が発掘され、ブルガリアは「酒と豊穣の神ディオニソスの故郷」としても知られている。
遺跡発掘が進むにつれ注目が高まったのは、トラキア文明だ。
紀元前5000~3000年頃、ブルガリアやギリシャを含むバルカン半島南東部一帯には、巧みな金属加工の技術を持ち合わせたトラキア人が独自の文化を形成していた。
近年には「黄金文明」との呼び名にふさわしく、精緻な細工が施された黄金の酒器やマスクなどが次々と発掘されている。

2023年4月26日にブルガリア大使館で行われたワインセミナーにてナビゲーターを務めた太田賢一氏(画像・左)は、こう推測する。
「金属加工の技術は、高度な温度調整能力が必要。また当時の書物には、トラキアワインについて『濃厚で甘く風味豊か』と好ましい記述がなされています。つまり、ワイン造りに必要な温度管理についても、古代からトラキア人は熟知していた可能性があるのです」
さて、風光明媚で観光のしがいがあるブルガリアなのに、「旅してみようか」と思わせる情報がまだまだ少ないのは、第二次世界大戦後にソ連の衛星国となった政治的事情による。
ソ連崩壊後も経済はしばらく不安定なまま、ワイン生産を含めた各産業が復興し始めたのは2009年のEU加盟後だ。
ワイナリーは国営となり、ゴルバチョフ政権時代にはペレストロイカの禁酒政策で大打撃を受けたブルガリアのワインだったが、EUからの新たな農業補助金を得て急速な復興を果たしている。

(画像・左より)黒海沿岸で人気のディミャット、エキゾチックな香りのメルニック、トラキア・ヴァレーで多く栽培されているルビン。

ブルガリアワインのお楽しみは、なんといっても他では見られない固有品種との出会いだ。
「ディミャット」「サンダンスキ・ミスケット」「メルニック」「マヴルッド」「ルビン」などなど、新鮮な響きの品種がブルガリア各地で栽培されてきた。
「固有品種には正直、そんなに興味がない」と冷めている人でも、「ルビンはシラーとネッビオーロの交配品種」と聞けば、果たしてどんな味わいか「……1回、飲んでみたいかな」と心変わりするはず。
現在のワイナリー数は約370軒で、そのうち1000ヘクタール以上の畑を持つ大手ワイナリーはわずか7軒。
小規模な造り手の個性を1軒ずつおさえていくアプローチも、また楽しい。

さらに太田氏は、ユニークなポイントをこう紹介する。
「『バラの谷』で造られるワインは、香りが華やかなアロマ系の白ワインが多いんです。まるでバラの香りをまとっているかのようですよ」
ブルガリアの主要産地のひとつである「バラの谷」は、実際に香りの優れたバラの産地だ。
ローズ・オイルなどバラの香料生産は全世界の7割を占め、バラの谷の町カザンラクでは毎年6月にローズ・フェスティバルを開催、バラの女王を先頭にしたパレードやコンサートで賑わう。

ブルガリア最大のワイン産地は、ドイツを源流とするドナウ川沿いのドナウ平野。
琴欧州の出身地でもあるヴェリコ・タルノヴォ市はこのドナウ平野の南限に位置し、5000年前から集落が存在していたという歴史ある観光地だ。
レストランも多々あり美食の町として知られているので、訪問した際はドナウ平野産ワインとともに郷土料理を味わうのがベター。
また数々の山脈が連なる国土だけに、白ブドウの栽培に適した黒海沿岸、温暖な大陸性気候であるトラキア・ヴァレー、火山性土壌が特徴的なストルマ・ヴァレー、とそれぞれの産地で気候は大きく異なる。
隣国に比べると物価も安いままのブルガリアだけに、コスパのいいユニークなワインがきっと見つかるに違いない。

(左)ブルガリア料理のシュケンベ・チョルバは、「二日酔いにきく」とされる胃袋の煮込みスープ。(右)ブルガリアほかで現在使われているキリル文字のベースとなった、スラブ圏最古の文字「グラゴル文字」があしらわれたヴィア・ヴィネラ「ブルガリアン・ヘリテージ」。ディミャット、マヴルッドなどブルガリア固有品種を用いたワインのシリーズだ。

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