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WINE

長く寝かせてこそのチリワイン チャドウィック2000~2021を比べて分かったこと

取材・文/山本ジョー
1976年のブラインド試飲大会「パリ・テイスティング」でフランスワインと堂々戦ったカリフォルニアワインに続き、2004年「ベルリン・テイスティング」でワイン業界を震撼させたのがチリワイン。フランス5大シャトーほか名だたる銘醸ワインが居並ぶなか、トップに君臨したのは「チャドウィック2000」であった。ベルリンでの出来事から約20年経た今日、チャドウィックは何か変わったのか?いや、もしや何も変わっていないのか??

2023年9月に日本で発売解禁となるチャドウィックは、2021年物。ボルドー系品種に強いマイポ・ヴァレーの限定畑で栽培されたブドウを使用している。

古き佳き高級ボルドーと共通するキャラクター

チリのカベルネ種を使った赤ワインはチリカベとの愛称で呼ばれ、親しまれている。とはいえ、チリのみならず全世界の頂点に立つチャドウィックが創り出すカベルネ・ソーヴィニヨンは、その呼称でくくるには異次元すぎ、別モノのワインと断言したい。もしも友達に「うちでチリワインでも飲む?」と誘われ、いきなりチャドウィックを出されたら?! 高級レアワインの登場に思わず腰が抜け、口にすれば、味わいに圧倒されて再び腰から崩れ落ちる。その友達は生涯大切にすべきだ。パワーというより、凝縮感。果実味というより、成熟感。そしてなによりエレガント。奥底に古き良きボルドーワインの姿を見出す人もいるほど、クラシック路線である。
さて9月に発売のチャドウィックの最新ヴィンテージ、2021年物を運よく手に入れられた人には、寝かせてこそ真価を発揮するワインであるとお伝えしておきたい。昨今は長期熟成ワインの代表選手であったボルドーが「すぐ飲んでもおいしい」の方向へ舵を切りつつあるなか、チャドウィックは「できれば寝かせて」の姿勢を崩さない。その点でも、まさにお株を奪うクラシック・ボルドーだ。

チャドウィックの真価が伝わる垂直テイスティング会にて。ベルリン・テイスティングで最高位を極めたチャドウィック2000年をはじめ、最新ヴィンテージの2021年まで6ヴィンテージがピックアップされていた。

6ヴィンテージ、味わいの変遷

そう考えると、2004年開催のベルリン・テイスティングに登場したチャドウィック2000は当時、最高潮の飲み頃には達していなかったのかもしれない。と言いつつ今はすでに2023年。逆に、2000年物はまだまだイケるのか? 2000年と最新ヴィンテージの2021年に加え、2010、2013、2014、2020の垂直テイスティング会があると聞き、会場の銀座「FALO」へ赴いた。
先に結論をお伝えしてしまうと、2000年は大化けしていた。マッシュルームやブラックカラント系のベリーがふんわりと香り、バランスも余韻も文句ナシ。ボルドーのほかブルゴーニュ特級の古酒にも通ずるたおやかさだ。つまり、20年以上の熟成に余裕で耐えるし、寝かせるほど官能的になると実証されたのだった。
いっぽう、リリースしたての2021年はどうか。夏はやや涼しくブドウがゆっくり成熟していった年であり、よく成熟したタンニンとはつらつとした酸が共存、フレンチオーク新樽の香りがアクセントになっている。収穫から2年少々経った現在の試飲で、ワインの底力は恐ろしいほどきちんと伝わるが、正直なところ「あと20年寝かせたら、どれだけの色気が出てくるのか」との期待が上回った。
なお、チリのヴィンテージチャートはおしなべて「諸外国に比べ天候は毎年安定」との一言でまとめられがち。ただし、たとえヴィンテージチャートの数値はほぼ均一でも、やはり年ごとの違いはあるものだ。

〇2010年はスパイスとハーブが香り張りのある味わい。会場ではダブルデキャンタされたくらい力強かったので、あと10年寝かせられる。
〇2013年はフローラルな香りが印象的。ブドウ生育期の天候は2021年似とのことなので、2021年物の未来像は2013年から連想できそうだ。
〇2014年はペパーミントやチョコ、ダークチェリーの風味あり。ブラインド試飲時、この年なら「もしやチリ産?」だと当てられるタイプ。
〇2020年は、ベリー系フルーツ感と旨味が豊かで、タンニンの細やかさが光る。ドッシリとした質実剛健なキャラクター。
もちろん、これだけヴィンテージの違いがやすやすと掴めるのは、テロワールを微細に表現するチャドウィックゆえ、である。

チャドウィック垂直テイスティング会の東京開催に尽力した、アジア市場担当のサブリナ・トゥミノ(左)とアジア・パシフィック地域ディレクターのジュリアン・プーティエ(右)。

チャドウィックの深みを増すものの正体

では、ヴィンテージ以外の要素で大きな変化は感じ取れただろうか? これは飲み手によって意見が分かれる。「昔よりパワフルになったから、近年は醸造をアレンジしたはず」と語る人もいれば、「造りは昔も今も一本線上にある。変わらないのがチャドウィックの魅力では」と意見する人もいる。ひとつ確実な変化を指摘するなら、ずばり樹齢だ。平均樹齢28年となり、さらに凝縮度が増したのは当然。
テイスティング会場で、チャドウィックのアジア担当者たちへ醸造面での変化を聞いてみたところ「基本、大きな変更はない」との返答だった。
「ただ、もし変わったとするなら、造り手たちの自信ではないでしょうか。正しいものを産み出せる自信がついて、人物由来のキャラクターが自然とにじみ出るようになったかもしれませんね」
と、ジュリアン・プーティエは推測を加えてくれた。
チャドウィックほど確立されたトップブランドにおいて、作為的な変革はほぼ必要とされない。いっぽう、人のプライドが高まり、一つひとつの仕事がより丁寧に。そんなささやかな変化の積み重なりで、2021年は2021年でしか表現しえない深みに達していた。

能田耕太郎シェフ

合わせる料理でもワインの印象は変わる。チャドウィックとは相性がいいとお墨付きの仔羊料理を例に挙げてみよう。仔羊の挽肉を使ったタリアテッレならワインの酸味が心地よく広がるし、世界で最も有名かつプレミアムな「アニュー・ド・プレ・サレ」をソテーにした一品なら、独特の柔らかい肉質と肉の香りに寄り添うワインの細やかなタンニンに感動する。イタリア・ローマ「ビストロ64」のオーナーシェフであり、2018年に銀座「FALO」シェフに就任した能田耕太郎さんが手掛けた仔羊料理は、どれも気品の高さでチャドウィックと共鳴していた。

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山本ジョー

ライター。2000年よりワインや食にまつわるテキスト制作を請け負ってきたが、ときおりタレント本や鉄道本にも携わる。 畑で細々と野菜を作り、猟師から獲物を分けてもらうカントリーライフを堪能中。 好きなものは旅、犬、カジュアル着物。 小型船舶免許1級を取得して以来、船の操縦経験ゼロ歴を更新し続ける「なんちゃって船長」でもある。

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