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コンセプチュアル・アーティストの 巨匠ジョセフ・コスース氏、 オルネッライア2020年ヴィンテージ「ラ・プロボルチオーネ(調和)」を飾る

DOCボルゲリ・スペリオーレのオルネッライアは、毎年のヴィンテージを象徴する言葉からインスピレーションを受け、作品を創作する「ヴェンデミア・ダルティスタ」を継続している。今年発表された2020年ヴィンテージで15回目となる。

<コンセプチュアル・アーティストの巨匠ジョセフ・コスース氏がオルネッライア2020年ヴィンテージ「ラ・プロボルチオーネ(調和)」を表現>

オルネッライアのキューレーターチームは、2020年の「調和」を表現する芸術家として、アメリカのオハイオ州出身でヴェネツィア在住のコンセプチュアル・アーティストで思想家のジョセフ・コスース氏に依頼した。彼は、従来の芸術の手法を新たな視点で再定義しながら、複雑なカルチャー・コードを視覚的に表現する「言語による芸術」を追求した。

そして、完璧なバランスを保った2020年のオルネッライアを、「ワイン」という言葉の語源系図により表現した。

「全ての経験が言語によって生まれており、言葉の起源には大きな意味がある。今回ゲルマン語、ギリシャ語、ラテン語などで表現した。私の芸術を完成させてくれるのは観客なので、今日ここではその理由についての答えは出したくない。答えは皆さんが見つけてくれるものと考えている」と、コスース氏は解説。

ジョセフ・コスースは、オハイオ州トレドで1945年に生まれた。1960年代から70年代にかけて興った芸術の概念を再定義した活動、インスタレーション・アートやコンセプチュアル・アートの先駆者の一人として知られている。

例えば、1965年の作品 ”One and Three Cahir” では、木製の椅子、その写真、辞書における椅子という言葉の定義の組み合わせで構成されている。同年の“Five Words in Blue Neon” では、シンプルに青いネオンでタイトルのフレーズが書かれた作品 言語の限界を証明して見せるために色を使っている。

1971年から72年にかけて人類学と哲学を学んだことが作品に強い影響を与えており、視覚的イメージの代わりに言葉を使った探求に専念し始めた。また、言葉とイメージの概念同士の関係性にも取り組み、哲学はアートになることでしか存続できない、アートは知的実践だと信じるようになったという。

<2020年オルネッライア>

オーナーのフェルディナンド・フレスコバルディ侯爵、オルネッライア社の統括責任者であるジョヴァンニ・ゲッデス・ダ・フィリカーヤ氏、このヴィンテージを生み出した最高醸造責任者(2023年夏まで)のアクセル・ハインツ氏などが2020年について説明した。

2020年は「ラ・プロボルチオーネ(調和)」と命名された。2018年の「ラ・グラツィア(優美)」はオルネッライアで初めてメルロがブレンドの半分以上を占めた(51%)。2019年の「イル・ヴィゴーレ(活力)」は、猛暑でありカベルネ・ソーヴィニヨンの年であった。それに続くヴィンテージ、2020年はどのような年だったのだろうか。

ブドウの品種構成はカベルネ・ソーヴィニヨン50%、メルロ32%、カベルネ・フラン13%、プティ・ヴェルド5%。例年よりもカベルネ・フランの構成比が高い。過去を見ると「ラ・テンシオーネ(緊張)」と名付けられた2016年が、カベルネ・ソーヴィニヨン51%、メルロ27%、カベルネ・フラン18%、プティ・ヴェルド4%と少し似ている。しかし、2016年は乾燥して水分ストレスが適度にかかり、暑すぎることなくフレッシュさや硬さが見られた。一方で2020年は、乾燥し豊かな陽光に恵まれてヴェレゾンが急速に均一に始まり、適度な雨や日較差の大きさなどにより、成熟も順調に進んだ。2016年と比べて収穫期が短期間で終了している。また、2020年は9月下旬に気温が大幅に下がり、ワインにフィネスと豊かな芳香を与えることになった。

「それぞれのブドウ品種の個性がはっきりと表れ、絶妙のバランス」だとして、アクセル・ハインツは「ラ・プロボルチオーネ(調和)」という言葉を選んだ。

実際に試飲してみると、2016年との違いが明瞭だった。小さな赤い果実や黒い果実、ブラックベリー、カシスなど凝縮したギュッと詰まった香り。そしてカカオ豆のような香ばしさや複数のスパイスなども融合しハツラツとしている。味わいはしなやかなアタックで始まり、ベルベットのようなテクスチャーが印象的。フレッシュな酸が味わいを生き生きとさせ、緻密な味わい。タンニンは豊かながらとても細やかで、突出することがない。余韻は細く長く上品。今からでも楽しめるほどの絶妙なバランスだ。

「アロマが強すぎることもなく、穏やかでフィネスがある。今すでに調和が取れているが、このバランスが崩れることはなくこのままのプロポーションを保ちながら10年、15年、20年と熟成してさらに高みに登りつめることが容易に予想される」と、ハインツ氏。

100 本のダブルマグナム(3 リットル)のラベルには、ワインという言葉の語源を表す系図を表現。10 本のアンペリアルボトル(6 リットル)では、デザインが全て異なり、語源系図をボトルにエッチングを施した。各ボトルには、他のボトルと異なる系図を白い枝に見立てて強調し、該当する言語(アルバニア語、セルビア語、ラテン語、イタリア語、ヒンディー語、ヘブライ語、現代ギリシャ語、アイルランド語、ドイツ語、アルメニア語の10 の言語)と、そこから派生した 言語により、ヴィトルウィウスの引用文を翻訳。世界に1 本しかないサルマナザールボトル(9 リットル)では、白で強調した枝の周囲にヴィトルウィウスの言葉を英語で配し、プラチナ製のプレートに彫りを施している。

 

<おまけ:2022年収穫情報>

オルネッライアから最新の2022年ヴィンテージの情報も発信された。「異常気象、自然の脅威を人間の叡智と忍耐で乗り越え、完成したエレガントなワイン」が出来上がったと言う。

冬から春はとくに問題はなかったが、5月に天候が一変し気温が30℃を超えた。その後75日間ずっと降雨がなく、成長・開花・ヴェレゾンに深刻な影響を与えた。ソーヴィニヨン・ブランの収穫が8月9日から始まったが、雨で中断。十分な降雨量が得られ水分ストレスから回復し、9月は涼しい晴天に恵まれた。この結果、カベルネ・フランとカベルネ・ソーヴィニヨンが完璧に成熟できた。

しかし、黒ブドウも夜間収穫し冷蔵室に入れたり、選果を例年よりさらに厳格に行なったり、醸造にはバリックやトノーだけでなくアンフォラも用いるなど、あらゆる手段を試みた。その結果、「暑いヴィンテージの特徴が明確に出ている。豊潤で豊かなボディがあるとともに、輪郭のはっきりした香りと美しい酸味の絶妙なバランス」が得られた。

(Y. Nagoshi)

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