1st glass of wine
「ボデガ・イニエスタ」
文/紫貴あき
2018年5月23日、日本中があるニュースに沸きました。
「イニエスタ ヴィッセル神戸移籍」、ネット配信ニュースに表示された見出しに、サッカーファンは大興奮。まさに夢のようなニュースです。
イニエスタといえば、元FCバルセロナのスター選手でもあり、2010年のワールドカップでも、スペイン代表を優勝に導いた貢献者です。洗練されたサッカー技術だけでなく、謙虚な人柄、リーダーシップでもファンを魅了しています。インスタグラムのフォロアー数も3500万人超とは脱帽です。(2023年9月時点、日本で最もフォロアー数が多いのがタレントの平野紫耀でフォロアー数390万人)
賑わうワイン販売サイト
このニュースと同時に賑わったのが、インターネットのワイン販売サイトです。移籍とワインにどんな関係があるのか、不思議に思った人もいるでしょう。実は、イニエスタは故郷のラ・マンチャ州でワインを造っているのです。その名も「ボデガ・イニエスタ」。どのサイトを見ても、完売しているではありませんか。
イニエスタというと元FCバルセロナの選手だから、バルセロナを包括するカタルーニャ州出身と思うと大間違えで、実は、首都マドリードの南に位置するラ・マンチャ州の小さな村出身なのです。(余談ですが、幼少期はFCレアル・マドリードの大ファンで、FCバルセロナは宿敵だったようです)
ワイナリー事業スタートのワケ
故郷を離れ、12歳でFCバルセロナに入団したイニエスタ。当時は、ホームシックにかかりました。毎日家族に電話し、週末ごとに帰省していたとか。「12歳だからしょうがない」「全寮制なら頷ける」との声もありますが、それよりも、イニエスタは人一倍「地元愛」が強かったのではないでしょうか。
そんなイニエスタが、地元でワイン事業に乗り出したのは自然なことでしょう。祖父の代からブドウ農家で、父も10haの畑を所有していました。ワイナリーでは地元の人々を雇用して経済発展に努めたり、ワイナリーには「イニエスタ・ミュージアム」を併設し、ワインツーリズムにも力を入れたりしています。そう「ボデガ・イニエスタ」は家族と故郷への恩返しプロジェクトの一環なのです。
ボデガ・イニエスタの実力
ワイナリーはスペイン内陸部に位置し、非常に乾いた気候タイプです。ときには暑すぎるため、ブドウが甘くなりすぎたり、レーズンになったり、ときには干ばつの被害に遭ったりすることもあります。しかし標高が600~1000m近くあるために(参考までに、高尾山の標高は約600mです)、夜間にぐっと気温が冷え込み、ブドウの過熟を回避することができるのです。
スペインを代表する黒ブドウ品種テンプラリーニョ、白ブドウ品種マカベオの他にも、カベルネ・ソーヴィニヨンなどフランス出身のブドウ品種も栽培されています。最も推したいのが、黒ブドウ品種ボバルです。スペイン南東部を中心に栽培されている地場品種で、極端に乾いた場所でも適合します。
イニエスタワインをテイスティング
ボデガ・イニエスタ コラソン・ロコ・ボバルをテイスティング。鮮やかな深紅色。新鮮なブラックベリー、黒胡椒が香ります。味わいはブラックプラムをかじったときのような、ジューシーな果実味です。それでいて、爽やかな酸があり、良いバランスを織りなしています。飲むとポジティブな気分になる1本です。
終わりは始まり
2023年夏、イニエスタはヴィッセル神戸を退団することを発表しました。目に涙を浮かべながらも、感謝の辞を述べていたのが忘れられません。終わりは始まり。この日は、もちろんボデガ・イニエスタでイニエスタの門出を祈って乾杯したのです。
紫貴あき(しだかあき)氏
ワイン講師J.S.A.認定ソムリエ・エクセレンス/第10回J.S.A.ワインアドバイザー全国選手権大会 優勝。
大手ワイン専門輸入商社にてマーケティングを担当。退社後はカリフォルニアでワインを勉強し、現在は、レッスンや執筆活動を通じてワインの魅力を伝えている。2024年3月にはKADOKAWAから「ゼロからスタート!ソムリエ1冊目の教科書」を出版予定。