「椀子ワイナリー」が目指す高みはこれからの日本ワインの橋頭堡
ワインの特集を組むとき、反応が高い人気コンテンツのキーワードは「自然派(サステイナビリティ)」「オレンジワイン」「日本ワイン」こんなところだろう。
今回は「日本ワイン」をワイナリーの視点から紹介してみたい。日本のワイナリー数は、全国47都道府県中44都道府県に453軒(※「酒類製造業及び酒類卸売業の概況(令和4年調査分)」)と増えているが、全世界的にみると知名度は国産ウイスキーと比較してまだまだ低い。また、日本のワイナリーは高コスト低収益の傾向が定着しており、払拭出来ていない。ワイナリー数は増加と書いたが、ほとんどは中小企業(小企業の方が多いだろう)が経営しており、その半数が赤字もしくは50万円未満の営業利益という実態(※国税庁資料)も見えてくる。その様ななか、今回紹介する日本ワインのリーディングカンパニーである「シャトー・メルシャン」は、「ワイナリー」として類い希な成功体験を築きつつある。「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー」の成り立ちからワイナリーツアーなど過去から現在を取材した。
遊休荒廃化した畑はブドウ造りには宝の山の環境だった
少し専門的な話になるが、重要なので読んでほしい。「シャトー・メルシャン 椀子(マリコ)ワイナリー」がある長野県上田市丸子地区塩川の陣場台地は、遥か遠くに浅間山、蓼科山など360度見渡せる眺望がまず素晴らしい。この地域は年間降水量が平均900ミリと少なく、干害を受けやすい場所で、かつては養蚕のための桑畑が広がっていた。昭和40年代からは桑畑に変わり薬用人参の栽培が行われてきたが、連作障害や価格の低迷、農家の高齢化等により作付けが減り、平成に入ってからは陣場台地の農地約25ヘクタールのほとんどが遊休荒廃化という、日本の市町村が抱える酪農問題がここでも起きていた。しかしこの地は、「日当たり良好」「雨量が少ない」「排水・通気性のよさ」「大きい日較差」と、ワイン用のブドウ栽培にこれほど適した土地であった。この土地に注目していたシャトー・メルシャンは「日本を世界の銘醸地に」を目指すためにも、広大な自社管理畑を求めていたことなど、地元の協力のもと2003年ここに「椀子ヴィンヤード」を開園した。2007年には、排水路や調整池の整備など21haの造成が完了。2018年には29haまで拡大している。
ブドウ畑の拡大は「草原が蘇る」という効果を招いた!
ブドウ栽培をすることで、なぜ草原が蘇るのか? 昔の日本では茅採り(刈り)などで草原は人為的に維持されてきた。このような自然を「二次的自然」と呼び、日本の自然の殆どが二次的自然として守られてきた。しかし、草の利用先がなくなり、草原が喪失することで、多くの生物種が絶滅の危機に瀕している。こうした貴重な草原が、ブドウ畑を整備することで回復し、豊かな生態系が育まれたということだ。晩秋に枯草刈りを行い、捲くことで、さらに生態系豊かな場所を増やす取り組みも行っている。草原生態系のシンボル的存在である絶滅危惧種のオオルリシジミ(チョウの一種)が、4キロメートル程度しか離れていない東御(とうみ)市に生息していることに注目し、その食草のクララを挿し穂苗から育て圃場内に植え込むことも行っている。こうした自然との共生により、ネイチャー・ポジティブにも椀子ワイナリーは貢献している。2014年から実施している生態系調査では、絶滅危惧種を含む昆虫168種、植物289種が確認されているという。
この環境を体験・体感出来るワイナリーツアーが人々とワインを繋ぐ
ブドウ畑に椀子ワイナリーがオープンしたのは2019年。360度ブドウ畑に囲まれたワイナリーはオープン時より「地域」「自然」「未来」との共生を掲げ、「モノ消費(ココでしか購入出来ないワイン販売)」(※シャトー・メルシャンのワインは海外コンクールでも多数の受賞実績もある)だけではなく「コト消費(「体験」や「価値」)」も重視している。これを語るとき、一人の社員の発案が大きな役割を果たした。マーケティング部部長の神藤亜矢さんである。ある研修でビジネスアイディアをプレゼンし、それが椀子ワイナリーのワイナリーツアーというキラーコンテンツに結実する。実は神藤さんは、以前メルシャンのドル箱ワインブランドである「ロバート・モンダヴィ」の担当をしていた。カリフォルニアワインの父と呼ばれ、世界の銘醸地を育て上げ、またワイナリーツアーなど卓越した世界を造り上げた人であり、いわばブランドでもあるモンダヴィに薫陶を神藤さんは受けた。これまで日本に足りなかった「コト消費」が重視されたワイナリーになったのも腹落ちである。そしてそれは、ワインツーリズムに取り組む世界最高のワイナリーを選出するアワード「ワールド ベスト ヴィンヤード」にて、2023年まで4年連続で選出されるという高い評価を受けている。これはキリングループという大手だから出来たということだけではなく、そこに関わっている人たちがワイナリーに対する明確な矜持とアティチュードを持っていること、そしてそれを推し進めるチカラがあったからではないかと思う。ブドウ造りとワイナリーツアーという両輪で俯瞰してみた。
いくつもの人気ツアーがあり、「春の椀子マルシェ」などイベントも開催してきたが、今回また新たなワイナリーツアーが発表された。
メルシャン マーケティング部部長神藤亜矢さん
SDGsをテーマにした新プログラムの「SDGsツアー」を開催
シャトー・メルシャンの持続可能なワイン造りを体験出来るツアーが、9月2日(土曜日)、11月11日(土曜日)の2回、「シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー SDGsツアー」として開催される。ここまで書いておいてひとこと、「百聞は一見にしかず」である。実は7月某日、プレス向けに体験ツアーが開催された。
取り組みの説明を聞き、実際にブドウや土を触り体験しながらヴィンヤードを一周。
今回はゼネラルマネージャーの小林弘憲さんにご説明いただいた。
椀子ヴィンヤードをほぼ1周して取り組みを見て、回る。
左からゼネラルマネージャーの小林弘憲さん、残渣の発酵堆肥化畑、塩川小学校の学びの場ジャガイモ栽培。
ワイン造り施設、絶滅危惧種オオルリシジミの幼虫が唯一食べるクララやさまざまな植物・昆虫の生態、二酸化炭素排出量削減のためのブドウの残渣の発酵堆肥化畑などを見学し、所要時間は120分。
また、見学終了後はワイナリー限定品含む6種のワインテイスティングが用意されている。
左から「シャトー・メルシャン 椀子のあわ(スパークリング)」「シャトー・メルシャン 椀子ソーヴィニヨン・ブラン(白)」「シャトー・メルシャン 椀子シャルドネ(白)」「シャトー・メルシャン 椀子メルロー(赤)」「シャトー・メルシャン 椀子カベルネ・フラン 樽選抜(赤)」「シャトー・メルシャン 椀子オムニス(赤)」
シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー SDGsツアー概要
開催日/2023年9月2日土曜日、11月11日土曜日※事前予約制
※2024年以降は年5回程度実施予定。
所要時間/約120分
定員/10~20名
参加費/10,000円(税込)
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シャトー・メルシャンのwebサイトはここをタップ
【ワイナリー限定品】
北信シャルドネ スペシャル・エディション 2022
明治10年に端を発した日本ワインづくりが145周年を迎える2023年、「北信シャルドネ 2022」の最高峰として造られた特別なワイン。長野県北部千曲川流域の北信地区にある、左岸・右岸それぞれの区画ごとに仕込み分けして育成した中から、特に優れた樽を選びアサンブラージュという逸品。希望小売価格/10,000円(税込)
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