取材・文/名越康子 写真/小松勇二
マティアス・リオスさんは2003年にコノスルに入社して以来、前・醸造責任者のアドルフォ・ウルタドさんと共に仕事をした後、2018年にアドルフォさんの後任に抜擢された人物です。いつもワインへの愛がたっぷりなマティアスさんとのコノスル・ディナー! そして今回は、数年前にコノスル訪問経験もあるワインナビゲーターの岩瀬大二さんもご登壇。コノスルのワイン、そしてお料理との相性などについても語っていただきました。どのようなワインが供されたのかお伝えします。 会場は、表参道駅からほど近い「W AOYAMA -The Cellar & Grill-」です。

「チリと日本は、距離的にはとても遠いけれど、私たちの心はとても近い」と、マティアスさん。いつもと変わらぬ笑顔で語り始めました。

マティアス・リオス氏

また、ペアリング解説はワインジャーナリストの岩瀬大二さんが登壇。岩瀬さん自身、チリのソーヴィニョン・ブランがワインに目覚めていくきっかけの一本でもあったそうで、ペアリング解説だけではなく、お家でいかに楽しむかなどオケージョン提案も随所におりこんだお話に参加者のみなさんも大変参考になったと、大好評でした。

ワインジャーナリストの岩瀬大二さんにペアリング解説、オケージョン提案をいただいた。
20バレル ソーヴィニヨン・ブラン 2023✖️13種の野菜のテリーヌ


「20バレル ソーヴィニヨン・ブラン 2023」
これは、寒流であるフンボルト海流が流れる寒冷な太平洋から50kmに位置するカサブランカ・ヴァレーの西部にあるエル・センティネラ畑のブドウを用いています。
赤い粘土質土壌で、斜面の畑の上部と下部に異なるクローンのソーヴィニヨン・ブランを栽培。
「シトラス、アスパラガスなどの香りがし、口中で感じるボリューム感は土壌由来でもあり発酵後に行うオリの攪拌(バトナージュ)由来でもあります。わずかに感じる塩っけは、海からの霧に由来するものです」と、マティアスさん。
「2017年に訪問の際に畑を自転車で周り、一度でコノスルのファンになりました!」と言う岩瀬さん。「カサブランカ・ヴァレーは、本当に朝靄が海から川を通して上流に流れ込んでいきます。まさに塩味を感じる理由はこれ。そして、一般的にはチリのソーヴィニヨン・ブランはもっとハーブの香りが強いけれど、この20バレルは違いますね。よりアロマティックな香りが感じられます」と続けます。
そして前菜の「13種の野菜のテリーヌ」は出汁で仕立てバジルも使っていて、味わいのバランスや質感、香りまでしっかり計算されていて、ワインもお料理もお互いに「どうぞ、お先にどうぞ」と優しく引き立てあっているという印象でした。
岩瀬さんのお家コノスル、オケージョン提案
「野菜を包んだ生春巻き、あるいは牡蠣などの貝類のセビーチェ、蒸したブランド鶏、青パパイヤのサラダと良く合いそうですね。東南アジアのリゾートで飲みたい雰囲気をまとっています」。どれも試してみたいですね!
シングル・ヴィンヤード リースリング 2023✖️北海道産天然ブリの湯霜造り


「シングル・ヴィンヤード リースリング 2023」
チリで最も南に位置するワイン産地、ビオ・ビオ・ヴァレーにあるムルチェン畑で栽培されるリースリング100%のワインです。ここは首都のサンティアゴから540kmも南で、冷涼なだけでなく降雨量も多い場所。ドイツの気候条件に似ていると判断し、コノスルのプロジェクトのために早くから植樹されたそうです。
「リースリングはドイツのイメージだけれど、チリではどうなの?と1986年に植樹し、栽培にチャレンジしたのが始まり」と、マティアスさん。実はチリで栽培されているリースリングのうち95%はコノスルの畑で、他には2〜3社しか栽培していないとのこと。
「火山性の赤い粘土質土壌から生まれるこのリースリングは、クリーンでフレッシュ、そしてデリケイト。白い花を思わせるフローラルなアロマが特徴的。そして、シトラスのニュアンスもあり、きれいな酸味とオイリーさも感じられるはず。コノスルの品種シリーズは、品種の個性を大切にしていて、どの品種なのか明確にわかってもらえると思います」と、マティアスさん。
細かい話ではありますが、最初のソーヴィニヨン・ブランもこのリースリングも、ブドウを破砕してから8〜10時間マセレーションして香気成分を十分に引き出しているのがポイントの一つのようです。おいしいのにはワケがあります。
「北海道産天然ブリの湯霜造り」とは「食感がとてもよく合います。他のお料理なら、私の名前と同じ富山の岩瀬という土地で食べた鱒寿司と合わせてみたいと思いました」と、岩瀬さん。
岩瀬さんのお家コノスル、オケージョン提案
「ビオビオは、チリワインの新しいキーワード。通常リースリングは高貴なワインのイメージが強いですが、このリースリングはフレンドリーさも感じさせてくれます。高貴過ぎないところが素敵で、ロマンティックな雰囲気で飲みたいワインです」と語ってくれました。
20バレル シャルドネ 2022✖️北海道産知床鶏のもも肉とフォアグラのエンパナーダ

「20バレル シャルドネ 2022」
こちらのワインも、海に近い冷涼な産地カサブランカ・ヴァレーの畑より。斜面の上部に位置して海の霧の影響を受けやすい特定の区画のシャルドネだけを用いています。2001年植樹ですからすでに樹齢20年以上です。 「プレスをより優しくしていて、熟成はフレンチオークの新樽、1、2年使用樽、そしてコンクリートエッグも使用しています。コンクリートエッグは、自然の対流により味わいを豊かにしテクスチャーの良さにも貢献するので」と、マティアスさん。冷涼感や塩っぱさもありながら滑らかなテクスチャーが心地良いのはこのような工夫からなのですね。
「私たちは、デリケイトさとフレッシュさを常に追求しています。ちなみに、このシャルドネはウニと合わせると驚くほどの相性で、月まで飛んで行けるよ!」と、マティアスさんが言うのです。この冬に試してみなければなりません! 皆さんもぜひぜひお試しくださいね!
「冷涼な地域のシャルドネは樽熟成との相性が難しい場合もありますが、これはまとまりがとても良いですね。それに加えてコンクリートエッグ熟成によるうま味が、このエンパナーダのうま味ととてもよくつながっています。鶏のもも肉だけでなくフォアグラも入っているのに、シャルドネが全く負けずにとても素晴らしい相性ですね。両者がうまく手を取り合っています」と岩瀬さん。
岩瀬さんのお家コノスル、オケージョン提案
他の料理なら、博多の水炊きにも合いそうですね。関係が深まったカップルにお勧めしたいワインです」
そして、こんな発言も飛びました。 「このエンパナーダは、私がこれまでチリで過ごした14年間に食べてきたエンパナーダの中で、最高のエンパナーダですよ!」と、マティアスさんと一緒に来日していたマニュエル(アジアパシフィックリージョナルダイレクター)さんが大感激! これを聞いてシェフも大喜びで、ちょっと照れていらっしゃいました。ちなみにマニュエルさんは、まもなくコノスルを卒業して故郷のフランスに戻り自分のワイン造りに専念するそうです。


素晴らしいお料理提案いただいた大谷豪シェフとマティアスさん
シレンシオ 2020✖️煮穴子のチーズリゾット


「シレンシオ 2020」
さてさて、コノスルの最高峰の赤ワイン、「シレンシオ」の登場です。世界で最もカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培に適した産地のひとつとして名高い、マイポ・ヴァレー生まれのカベルネ・ソーヴィニヨン100%の超プレミアムクラスです。
「コノスルのフラッグシップは、この後に出てくるピノ・ノワールのオシオではありますが、チリワインのアイコンとしてカベルネ・ソーヴィニヨン100%で造っているのがこのシレンシオです。新樽100%で熟成しているにもかかわらず、樽の要素が強すぎない。エレガントで何杯でも飲めてしまうと思います」と、マティアスさん。確かに、マティアスさんたちのようにアルコール耐性が強ければ、何杯でも飲みたいと希望します(笑)。
「口中でタンニンがほとんど感じられないほど。それほど細やかなタンニンですね。テクスチャーを合わせるために普通のカベルネ・ソーヴィニヨンは肉料理を合わせます。でも、このシレンシオと煮穴子のチーズリゾットは、やばいコンビネーション! 使われている18か月熟成のコンテチーズ、ポートワインのソースが添えられていることで、絶妙な相性です」と、岩瀬さんも絶賛!
岩瀬さんのお家コノスル、オケージョン提案
肉は肉でもやわらかめに煮込みハンバーグはいかがでしょう。ご夫婦や友人と一緒に、キッチンで手ごねして、オーブンに入れて……出来上がり前のその時間からシレンシオを少しずつ分かち合う、なんて素敵ですよ。贅沢にもできあがったらそこにシレンシオをひと回し。家でも最高の一皿になっちゃいます。
オシオ 2020✖️和牛イチボのグリル イチジクと赤ワインのソース


このオシオが生まれた2020年は、暑すぎず寒すぎず、成長期に雨もなく、ストレスなくブドウが成長できたヴィンテージ。産地は冷涼なカサブランカ・ヴァレーです。
「カサブランカヴァレーで最も古いピノ・ノワールだけで造っています。ピノ・ノワールといえばブルゴーニュですが、私たちはブルゴーニュのような赤ワインを造ろうと思っているわけではありません。チリらしく、チリで最高峰のピノ・ノワールを造ることを目指しています。冷涼ではありながら、日照量にも恵まれている。これがチリならでは。それを生かし、若いうちから楽しめる、しかし長期熟成可能性もあるワインを目指しています」と、マティアスさん。
「オシオはテクスチャーが強いピノ・ノワールです。この料理に使われている赤ワインは、コノスルのビシクレタ・シリーズのカルメネールを使っているそうです。このオシオはとてもロマンチックなワインですね。他には、蝦夷鹿のソテーにジャムのソース、というのも良さそうです」と、岩瀬さん。
岩瀬さんのお家コノスル、オケージョン提案
レストランなら上品な料理と合わせたいですが、家なら逆にラムとハーブのシンプルなグリルなんていかがでしょう。でも塩にはこだわって。ミネラル感のあるやわらかい塩がおススメ。いろいろハーブや塩を持ち寄ってあれこれ試すのも楽しそう。“家オシオ”なら、大切な人との素敵な会話こそ、一番のペアリングかも。
オシオは次ヴィンテージ大変身する!?
「それから、オシオは次のヴィンテージ、2021年に様変わりします。次のヴィンテージにも乞うご期待!」と、岩瀬さんは続けました。
「そう、私たちは常にさらに品質を高めるために、止まることなく歩み続けています」と、マティアスさんも情熱的に語ってくれました。
「私はフランスのルーションに行ってしまうので、これが最後のセッションになります。ワインに興味があってコノスルに入ってから、ずっとマティアスを質問攻めにして、そうしたら14年も経っていました。いつの間にか情熱に変わって、自分でも造りたくなってしまって」と、マニュエルさんは言います。どうやらマティアスさんのワイン愛に感染した模様。
「私はパッションをシェアすることが大切だと思っています。仕事だけではなく、パッション、経験が重要。ブドウはただの果物ではなく、ワインはただの飲み物でもなく、皆さんへの喜びへの招待だと思っています」と、マティアスさんは締め括った。
コノスルは、例えばリースリングを栽培してみたり、世界的評価を得られるピノ・ノワールに挑戦してみたり。実にチャレンジングな生産者だと感じていましたが、今回の一連の話とテイスティングを通して、まさに、チリというワイン産地で新たな道を切り拓くために生まれたのがコノスルなのだ、と理解しました。これからどのように進化していくのかが楽しみですね!






また、今回のワイン会では提供されたワインすべて、W AOYAMAのワインショップ(店内のにあるワインショップで購入すると+1,500円レストランに持ち込みもOK)で販売され、参加した皆さんはボトル購入後、マティアスさんにサインを書いてもらったり、記念写真を撮影したりとこちらも盛り上がりました。
また、参加された皆さんからは来年、産地が変わったオシオでまたワイン会を、もちろんマティアスさんを迎えて開催してほしいとの声もいただき、みなさんコノスルを満喫されたワイン会でした。
W AOYAMAや輸入元のスマイルの皆さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。
