お酒を自由に楽しみ、セレンディピティな出会いを

WINE

ロゼは“軽やかな夏のワイン”だけじゃない?──かつて富裕層の象徴だったその歴史と未来

文/紫貴 あき

紫貴あきの「今夜」ワインが飲みたくなるはなし 22 the glass of wine

ロゼワイン、と聞いたらどんな情景が浮かびますか。
夏の午後、ビーチサイドのテラス。氷で冷やされたグラスに注がれる、軽やかで華やかな味わい……。けれど、そのイメージは実は“現代的な幻想”にすぎません。ロゼ――それはかつて、王侯貴族だけが味わえた特別なワインだったのです。

実は高級品だった!?ロゼの貴族的な過去

今でこそロゼは手に取りやすく、カジュアルな印象を持たれがちですが、古代ギリシャ・ローマ時代において富裕層が好んで飲む“高級品”だったのです。特に、古代ローマの時代では、上流階級は果皮とあまり接触させない淡い色のワイン(=ロゼ)を愛飲していたのです。

なぜ「庶民派ワイン」に?ロゼのイメチェン

19世紀末になると鉄道網の発展によりプロヴァンスを訪れる観光客が増え、その需要に応えるかたちでロゼの大量生産が始まります。20世紀に入ってからは冷蔵技術の発達により、フレッシュで軽やかなスタイルが広まり、ロゼは“夏の定番ワイン”として世界中に親しまれるようになったのです。

値段も手頃で、味もやさしく、ピンク色がなんともフォトジェニック。写真映えも手伝って、「ロゼ=気軽でおしゃれ」が常識となっていったのです。まさにロゼは観光客の定番ワインとなっていきました。

ロゼは果皮から自然に流れ出るフリーフロー果汁(いわゆるフリーランジュース)でつくられ、繊細で優しい味わいでした。目にも美しく、飲めば優雅なワインを楽しめるは、一部の富裕層だけ。一方で、濃い赤ワインをつくるには、当時はぎゅっとプレスしていたため、渋みが際立っていました。実はこちらが庶民向けとして飲まれていたのです。”(小さな野鳥)を意味するこの名は、畑の生態系と共に生きる自然農法への敬意を込めて名づけられました。

今こそ「本気のロゼ」へ──プロヴァンスの挑戦

ところが近年、ロゼは再び“プレミアムワイン”として注目され始めています。その代表格がフランス・プロヴァンス地方。なんとこの地では、総生産量の90%がロゼ。その徹底ぶりには思わず「さすが!」と拍手を送りたくなります。

しかもプロヴァンスでは、4,000,000€(日本円では約6億7千万円)を投資して、ロゼだけを専門に研究する「Centre du Roséロゼセンター」という施設を設立。世界で唯一、ロゼだけを科学的に探求する場所。香りの変化、発酵温度、色調に至るまで、ロゼに関するすべてを研究しています。これ、ピンク色のワインへの本気度、伝わってきませんか?

さらに、「Grand rosêグラン・ロゼ(Rosé à conserverロゼ・ア・コンセルヴェ)」と呼ばれる熟成型ロゼも注目を集めています。瓶内で2〜3年寝かせてこそ本領を発揮するロゼは、繊細な香りと複雑な味わいをまとい、食卓の主役にふさわしい存在感を放ちます。いわば「ロゼの進化系」。

セレブも夢中?ロゼの未来はピンクに染まる

この潮流に目をつけたのが世界の一流ブランドやセレブたち。LVMH、CHANEL、ブラッド・ピット、そしてジョージ・クルーニーまでがプロヴァンスのロゼづくりに参入。ロゼワインはまさに“セレブ御用達”の時代を迎えています。

あまりに売れすぎて、ついにはAOC Côtes de ProvenceではAOC(原産地統制呼称)のレギュレーション変更をして、スパークリング・ロゼをつくることも検討しているとか。ピンクの泡で乾杯する日も、そう遠くないかもしれません。

次の1本は「本気のロゼ」にしませんか?

ロゼ=軽い、安い、薄い──そんなイメージはもう過去のもの。歴史をさかのぼれば王侯貴族に愛され、現代ではテロワールと熟成によって奥行きを持った“本気のロゼ”が登場しています。

今夜の1杯に、いつもの赤でも白でもない、ちょっとだけ気品をまとったロゼを選んでみませんか?

ドメーヌ・オット
バンドール シャトー・ロマサン・クール・ド・グレン・ロゼ
生産国・地域/フランス・プロヴァンス AOC バンドール
種/ムール・ヴェルト、サンソー、グルナッシュ
参考価格/4,290円(税込)

8月19日火曜日19時~、「真夏の夜のロゼワインパーティ in LE BISTRO」を開催いたします。
当日フランスのロゼワイン、産地もタイプも異なる10種類をご用意して、LE BISTROさんが考えたペアリングル料理も楽しみながら、ロゼワインの魅力の奥深さを堪能いただけます。当日はパーティでは紫貴あきさんの「明日話したくなるロゼワインセミナー」も企画しています。詳しくは下記記事をご参照ください。

また、参加申し込みは下記からお願いいたします。

『紫貴あきの「今夜」ワインが飲みたくなるはなし』バックナンバーはこちらから

 

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
紫貴あき

ソムリエ | ワイン講師 日本最大級ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の人気講師。 丁寧なレッスンは、 初心者から上級者まで わかりやすいと評判。 著書に『ゼロからスタート!紫貴あきのソムリエ 試験』( KADOKAWA)。この夏には、かんき社から『ワイン図鑑』を出版予定。

  1. ロゼは“軽やかな夏のワイン”だけじゃない?──かつて富裕層の象徴だったその歴史と未来

  2. 透明な味わい、明快な哲学。オーガニックカバ『ブルアン』の物語

  3. D.O. カバ アンバサダーが語る、香りで楽しむカバ

RECOMMEND

RELATED

PAGE TOP