文/紫貴 あき
紫貴あきの「今夜」ワインが飲みたくなるはなし 20 the glass of wine
「再び脚光を浴びている、スビラト・パレント」
「この香り、本当にカバなのだろうか」──そんな驚きが、グラスを傾けた瞬間に胸をよぎります。オレンジの花、白桃、そしてハチミツを思わせる優美なアロマ。口に含めば、細やかな泡とともに、どこか異国めいた余韻がゆっくりと広がります。 これが、スペインを代表する伝統的スパークリングワイン「CAVA(カバ)」のひとつだと知ったなら、多くの方が目を見張ることでしょう。
2025年3月、わたしはD.O. カバのオフィシャルアンバサダーという名誉ある役割を拝命いたしました。就任してわずか二カ月ですが、カバという世界の奥行きと、その可能性に触れることができました。今回ご紹介するのは、4月に行われた世界最大級のワインとスピリッツの国際見本市「Pro Wein」のイベントで出会った忘れがたい一本、「スビラト・パレント(Subirat Parent)」という希少な白ブドウから生まれたカバです。

2025年3月D.O. カバのオフィシャルアンバサダーに就任した紫貴あきさん
スビラト・パレントとは?
スビラト・パレントは、スペインの一部地域で古くから栽培されてきた白ブドウ品種です。「マルヴァジア・リオハナ(Malvasía Riojana)」という別名でも知られています。
このブドウの最大の魅力は、その香り。ジャスミンや柑橘の花、完熟したマスカットを思わせるアロマが、グラスの向こうからはっきりと語りかけてきます。さらにアルコール度数がしっかりと出るため、ワインに堂々たる存在感を与えるのです。かつては甘口ワインの原料として知られていましたが、近年ではカバの香りに多様性と深みをもたらす存在として、再び脚光を浴びているのです。

カタルーニャ州の土着品種。マルヴァシアの系統ということが分かっている。非常に果皮が薄く、取り扱いが難しいことからブドウ農家に敬遠され、長年忘れられていた。また、糖度が上がりやすいため、主に甘口ワイン用として使われていたが、最適な収穫時期の研究を重ね、優れた辛口ワインも生み出されるようになった。(編集部注:エスタリコ・ジャパンのwebより)
カバを“香り”で選ぶという、新しい愉しみ方
スビラト・パレントのカバは、特別な日の乾杯にも、休日の昼下がりにゆっくり過ごすひとときにも寄り添ってくれます。冷やしすぎず、香りを丁寧に楽しむのが、このワインの“取扱説明書”です。
料理との相性も抜群です。たとえば、洋ナシを使ったサラダ、モモを添えたフレッシュチーズ、オレンジソースを添えた白身肉など、フルーティーさを感じる料理が、このカバの芳香性と調和します。
最後に──カバには、語るべき物語がある
カバは誤解されている、と感じることが多いです。たとえば、「手軽で手頃なスパークリングワイン」としてのみ受け止められている方も少なくありません。けれども、その背景には、つくり手たちの揺るぎない哲学や、一本のブドウに込められたブドウ品種の選択と覚悟が、静かに息づいているのです。

スビラト・パレントという品種は、その物語をそっと引き出してくれる語り手のような存在です。カバの奥深さに触れる入口として、これほど印象的な一本は、そう多くありません。次にカバを選ぶ機会があれば、ぜひ「Subirat Parent」と記されたラベルに目を留めてみてください。その香りと味わいが、カバに対する見方を、少しだけ変えてくれるかもしれません。

カヴァ スビラト パレント ブリュット ナトゥーレ 2011
ワイナリー/フィンカ・ヴァルドセラ
生産国・地域/スペイン・カタルーニャ州 D.O.カヴァ
品種/スビラト・パレント100%
参考価格/7,590円(税込)