プロヴァンスの「トリエンヌ」と言えば、ブルゴーニュの大御所がタッグを組んで始めたワイナリーとして知られている。4月末にトリエンヌの共同オーナーの1人アレック・セイスさんが来日し、彼を囲むワイン会を開催した。その時にアレックさんは父であるジャックさんや兄ジェレミーさんの思いも語ってくれた。場所は、「ダブリュー 虎ノ門 ザ・マーケット」。

トリエンヌおよびデュジャックの共同オーナー、アレック・セイスさん(右)、ブルゴーニュを中心としたワインを日本をはじめ国外に向けて紹介するエージェント、ソシエテ・サカグチの坂口香織さん(中央)が通訳を。
まずは「トリエンヌ ロゼ 2023」で乾杯!

I.G.P. Méditerranée Triennes Roséと合わせた「霧島サーモンと日向夏 新玉ねぎのセビーチェ」
「長くて暗く寒い冬の後、春らしい太陽の光が感じられるようになり始めた頃、やっと友人に声をかけ共に分かち合うために開けるワインがロゼです! そしてロゼワインはプロヴァンス地方のスペシャリテ。世界中でロゼワインのためだけにブドウを栽培している産地はここだけです。果実風味がたっぷり入っていて幸せを感じさせてくれるロゼは、アペリティフでも良いし、魚介類でも肉類でも、それにバーベキューにも良いですね。春の到来を喜んだり、夏のバカンスを楽しんだり、家族や友人と分かち合うのがロゼワインです」と、アレックさん。
次にサーヴィスされたのは、白ワインの「ヴィオニエ サント・フルール 2022」。
「父は昔からプロヴァンス地方には注目していました。そしてトリエンヌの土地を購入したのが35年前。3人の息子が皆戻ってきても食べていけるように投資をしたのです。プロヴァンスを選んだ理由は、この産地にポテンシャルを感じていたこと、そして手頃な価格で飲んでもらえるワインが造れる条件が揃っていること、太陽に恵まれリタイアした後でも楽しめる場所であることだと言っています。しかし、トリエンヌに辿り着くまでには4年もかかったようです」。
このプロジェクトは、「ドメーヌ・デュジャックのジャック・セイス、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティのオベール・ド・ヴィレーヌ、2人の友人でパリ在住のミシェル・マコー、この3名がタッグを組んで始まった」、と聞いていた。しかしどうやら、土地探しはジャックさんが1人で行い、理想的な場所が見つかったのだが予定よりも随分広かったため、2人の友に声をかけた、というのが真相のよう。

I.G.P. Méditerranée Viognier Sainte Fleurと合わせた「魚介と菜の花のタブレ ルッコラソース」
「プロヴァンス地方のブドウ畑は通常、平地で肥沃な土壌が多いのですが、父は傾斜の畑を探していました。そして、標高が400mと高く山の麓にある斜面の畑で、粘土石灰質の痩せた土壌を見つけたのです。まるでブルゴーニュを思わせる畑でした。標高が高いので夜の気温が下がり、爽やかできれいな酸が保て、香りも豊かになる。そこで父は芳しいフローラルな香りがし、大好きな品種、ヴィオニエを栽培したいと考えました。ヴィオニエは北部ローヌのコンドリューが有名ですが、それを真似しようとしたのではありません。コンドリューは複雑性があり厚みがある高価なワインです。そうではなく、アプリコットや白い花などの香りがあり、フレッシュでエネルギッシュ、しかも軽やかさありアペリティフとしても楽しめる白ワインに仕上がっていると思います」。
2つめの白ワインは「レ・ゾーレリアン ブラン 2022」。
「これは、トリエンヌの中で最も進化発展してきたワインです。始めた当初、父はよく知っているシャルドネで白ワインを造ろうとしていました。でも100%シャルドネだと平凡なワインになってしまい、この土地ならではのアイデンティティを築いていくのが難しいとわかりました。このワインの発展には父よりも白ワイン造りに長けている兄のジェレミーが貢献したのですが、南仏の在来品種ロール(イタリア名はヴェルメンティーノ)を使うことに決め徐々に比率を増やしていき、今では主要品種になっています。この土地ではシャルドネはブルゴーニュのようにはならず、在来品種の方が生き生きとした香りやキリッとした酸が得られるとわかりました」。
15年前ぐらいからロールを15〜20%使い始め、4〜5年前から50%以上の比率とのこと。

I.G.P. Méditerranée Les Auréliens Blancと合わせた「ジャンボマッシュルーム パセリバターオーブン焼き」
「私たちがこのワインで目指しているのはシンプルでおいしいワインです。シンプルというのは喜びをもたらします。でも実は、シンプルは難しい。本当においしいご飯(白いご飯)を作るのが難しいことを知っている日本の方なら、わかっていただけると思います。一番大事なのは畑仕事を頑張ることです。良いブドウを得られればシンプルでおいしいワインを造ることが可能になります。素材の大切さや農作物という意味で、ワインも白いご飯も同じです。もちろん栽培においても醸造においても、細かなことを適宜的確に行っていくことも大切で、それにはブルゴーニュで実践してきたことが反映できていると思っています」。
アレックさんがこう語っている時に、音を立てないように静かに拍手をしている参加者の人がいたのが目に入った。トリエンヌではオーガニック認証を取得し、バイオダイナミックの手法も取り入れている。
「ブドウも人間と同じで、10〜20歳頃には活力があり過ぎるので人がコントロールしなければいけませんが、30歳を超えるとちょうどバランスが取れ始め、50歳を超えると経験により深みや知恵が醸し出されてきます」と、語っていたのも印象的だ。

参加者のテーブルを一つずつ回り質問に答えるアレックさん。
途中で、司会者でWhynot? 編集長の山田靖さんからアレックさんに「実際にどのようにワインと食事を合わせていますか?」と質問が入った。さて、アレックさんのお答えは!?
「一つの例をお話ししますね。ある日、父と遅くまで仕事をしてへとへとになって、2人でレストランへ行くことになりました。ジャックが私にワインを選んで良いと言ったので、魚料理を注文したから白ワインにしようかとリストを眺めていました。するとジャックは『でも、赤ワインを飲みたくないか?』と言うのです。結局、確かに2人とも赤ワインが飲みたい気分だったので赤を頼みました。ジュラのワインとコンテチーズを合わせたり、ポルトにチョコレートケーキを合わせたりすることもあります。でも、その日に私たち父子が飲みたかったのは赤だったのです。ワインはともするとシリアスになりすぎる傾向にあるけれど、好きな人と好きなワインを飲むのが一番。ワインとはそういうものです。ワインを開ける理由はたくさんあります。それでも、誰かと時間を分かち合うことが最も重要なのではないかと思っています」。アレックさんの言葉に、参加者の皆さんも大きく頷いていました。

I.G.P. Méditerranée Les Auréliensと合わせた「恋する豚研究所 豚肩肉のプロヴァンス風煮込み」
最初の赤ワインは「レ・ゾーレリアン ルージュ 2021」。
「レ・ゾーレリアンは、先ほどの白ワインと同様にシンプルでおいしいワインを目指しています。この赤はシラーとカベルネ・ソーヴィニヨン半々のブレンドです。
そして2番目の赤ワインは「サン・トーギュスト 2020」。
「サン・トーギュストは毎年最良の品種をブレンドしていて、時々メルロを加えたこともあります。2020年はシラー54%にカベルネ・ソーヴィニヨン46%。毎年ブレンド内容は大きく変わり、生産量も大きく異なり造らないヴィンテージもあります。そして、果実味ではなくて複雑さと余韻にフォーカスしているワインです」。

I.G.P. Méditerranée Saint Augusteと合わせた「和牛のロースト 黒ニンニクのピュレ」
こちらはお店の方が早めにデキャンタして準備してくれていた。スパイシーな香りに、南仏でガリーグと表現する低木のハーブ、そして黒い果実の香りが融合し、フレッシュで生き生きとし、深みもあり、タンニンが細やかで豊かな味わい。以前バックヴィンテージも試飲したことがあるけれど、息の長いアイテムなのでこの2020年も今後の熟成が楽しみだと感じた。
「ストラクチャーはしっかりしているけれど、とろけるようなタンニン。ブルゴーニュでも、プロヴァンスでもそれを目指しています。ブドウが若木の時はタンニンが尖っていますが、今トリエンヌのブドウは35歳になってようやく分別ができて、ほどよいタンニンを表現できるようになったと感じています。もちろんタンニンの滑らかさには、1年間ゆっくり酸素を取り込みながら行う樽での熟成も重要です」。
実はこの後に、サプライズワインが登場!!!
「ドメーヌ・デュジャック」の「モレ・サン・ドニ 2021」が供された。
「2021年は、まるで1980年代を思い出すようなスペシャルなヴィンテージでした。ちなみにその翌年の2022は太陽の年。2021年は、春霜の被害もあり、一年通して冷涼。ブドウの成熟度は控えめで、兄と義理の姉と3名で悩んだ結果、抽出は少し多めにしたけれど、滑らかなタンニンが得られて安堵しました。冷涼な2021年は早くから楽しめるのが利点です。『デュジャックのワインの飲み頃はいつ?』と聞かれることが多いのですが、ある人は、『いつまで生きているかわからないから、飲みたい時に一緒に飲みたい友人と開けて飲むこと!』と言っていました。例えば果実風味が生き生きしているのが好きな人は早めに、反対に熟成感が好きなら数年寝かしてから飲むのが良いのだと思います」。
「私はモレ・サン・ドニで生まれ育ってきました。モレ・サン・ドニは、よく他の村と比較されるのを聞きます。隣村ジュヴレ・シャンベルタンよりもストラクチャーが少ないとか、シャンボール・ミュジニーほどのエレガンスはないとか。でも、モレ・サン・ドニにはもっとアピールできるチャーミングさや独特のスパイシーさがあると信じています。ですから、その部分をより心地良く楽しんでもらえるように努力を続けています」。
それにしても今ではブルゴーニュのワインが高騰しているので、これまでに増して「トリエンヌ」のリーズナブルさを実感!
そしてアレックさんの語りによって、プロヴァンスのトリエンヌも、ブルゴーニュのデュジャックも、どちらもその土地ならではの香味をいかに表現するか、緻密に、そして愛情たっぷりに造られているワインだということがよくわかった。参加者の皆さんも同様のようで、満面の笑みで名残惜しそうに会場を後にされていた。
とっても温かいワイン会になりました。改めて参加者および関係者の皆さんに感謝!
また次回お会いしましょう!
輸入元:ラック・コーポレーション
(photos by Yuji Komatsu / text by Y. Nagoshi)