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ブルゴーニュワイン&都道府県ペアリング<Part2 上級編> マコネ地区と九州グルメにズームイン もっと深く!ブルゴーニュワイン&都道府県ペアリング

文/山本ジョー 写真/山本育子 画像クリエイティブ/川上デザイン事務所

ブルゴーニュと日本を北から南へ移動し、ブルゴーニュワインと日本のグルメを次々と組み合わせていったPar1。各都道府県が誇るご当地グルメは、それぞれ素材も味付けもまったく異なり、独特の香りや塩気を持つものも少なくない。なのに、ひとつ残らずブルゴーニュワインとのペアリングを成功させたのはなぜだろう?

日本でも知られ始めた“ブルゴーニュ➕地理的表示

ペアリング成功の理由は、まず「ブルゴーニュワインは赤も白も和食と合わせやすい」ということ。シャルドネの白ワインはバランスがとれていて、アッサリした料理でも味を邪魔しない。赤ワインもまたタンニンが強すぎないから、肉だけでなく魚や野菜とも合わせられる。どちらも汎用性が高いのだ。


とくに、今回用意したワインの多くは、「ブルゴーニュ」の後に「シトリー」や「コート・シャロネーズ」などの地名が付いたものだ。この“ブルゴーニュ+地理的表示”は、いわゆる地理的表示(DGC=Dénomination Géographique Complémentaire)の付いたワイン。日本の北と南で食材が大きく変わるように、ブルゴーニュも北と南では同じ品種のブドウでもキャラクターが変わってくる。地理的表示付きワインは、そんな各地の気候風土をきちんと反映しながら、どんな料理とも仲良くできる包容力を備える。

ここ数年、「酒税アップ」「円安」とワインラバーにとって逆風が吹いている。そこで、あらためて納得できる品質と価格のワインを探し出そうとして「……あれ、この地理的表示の付いた“ブルゴーニュ”って、じつはかなりオトクじゃないか!」と気づくワインラバーも増えてきた。すでに一部の地理的表示“ブルゴーニュ”は、地域名AOC、村名AOCワインとともに日本での売上高を年々伸ばし、じわりと知名度も上がってきている。

和食の塩気がワインの果実味アップに
Part1で、47都道府県とブルゴーニュワインのペアリング検証を行った紫貴あき氏曰く、「ブルゴーニュワインと和食との相性は、塩気も関係しています。日本のご当地グルメは塩味を効かせたものがたくさんあるでしょう。塩気はワインの果実味を際立たせてくれますから、ブルゴーニュらしい果実味をしっかり味わえるという点でも、ご当地グルメとのペアリングには意義があるんです」。

ビギナーにとって、ペアリングを自分で組み立てるのは勇気が必要だ。南北200kmにワイン産地が広がるブルゴーニュワインをひとつ選び、日本の食をひとつ選んで組み合わせるのは、どこから手を付けていいか困惑するはず。だから、迷ったら「北の料理は北のワイン、南の料理は南のワイン」ルールにチョイスを委ねてしまおう。和食の塩気も、ブルゴーニュワインとのペアリングを後押ししてくれる。ちなみに、ブルゴーニュワインを飲み比べするなら、お勧めの価格帯は3000~6000円台。1万円を超えるほどの額でなくとも、産地の個性を感じられる楽しさがある。


「マコネ地区de深掘りペアリング」に挑戦!
さて、Part1ではブルゴーニュのワイン産地4地区ごとにペアリングを行ってきたが、それぞれの地区をさらにジックリ観察すると、まだ多くの日本人には知られていない多様なワインがひしめいている。そこで、このPart 2では一例としてブルゴーニュの南、マコネ地区に焦点を当て、ワイン4種と日本のご当地グルメを細やかに組み合わせていく。ご当地グルメのエリアは、もちろん南の九州地区だ。

マコネ地区はソーヌ川の西側、南北35kmに渡ってワイン畑が広がる。ブルゴーニュのなかでは比較的地価が低く、他地区で活躍してきた著名な醸造家がこぞってマコネ地区へ進出している。2020年以降、一部のアペラシオンで特に優れた区画がプルミエ・クリュに昇格し、産地全体でこうした格上げの動きがありながらも、“マコン+地理的表示”のAOCワインは、今現在もお買い得感をキープしてくれている。
「マコネ地区は他の地区より広く、2つの渓谷に囲まれていて土地の起伏が畑ごとに異なります。石灰質、粘土質など土壌にもヴァリエーションがあるから、興味深いワインが目白押しなんですね。あと、案外と知られていないのが、ガメイ種の赤ワインがマコネ地区で造られていること。ピノ・ノワールへの植え替えをせず、昔ながらのガメイワインを守り続けた地域のひとつです」(紫貴)

【合わせたいブルゴーニュワイン】

マコン・シャルネイ・レ・マコン クロ・サン・ピエール ブラン 2023
ヴェルジェ
品種:シャルドネ
シャルネイ・レ・マコンの「レ(lès)」は、「ほど近い」という意味の古語。その通り、ソーヌ=エ=ロワール県の県庁所在地、マコン市にほど近い村だ。赤やロゼも生産するが、メインは白。マコン地区のなかでも南のエリアで、温暖な気候がワインを肉厚なスタイルに仕立て上げている。現地では、山羊のチーズとともに食前酒としても愛されているとか。
紫貴’s 味わいコメント「最初はフレッシュな青リンゴ、オレンジの花、スワリング後にはパン・ドゥ・ミ、トーストの香りが現れます。南の産地ながら口中が洗い流されるようなフレッシュな酸があり、フィニッシュにはミネラル感も」

マコン・シャルドネ クロ・ド・ラ・クロシェット ブラン 2022
レ・ゼリティエ・デュ・コント・ラフォン
品種:シャルドネ
ワイン名「マコン・シャルドネ」のシャルドネは品種名を指すのでなく、シャルドネ種の名前の由来だと言われているシャルドネ村のこと。つまり、れっきとした“マコン+地理的表示”AOCのワインである。こちらは、ムルソーのトップ生産者コント・ラフォンが舞台をマコネ地区へ移し、粘土と石灰岩で構成される土壌の単一畑にて有機栽培で手掛けたもの。
紫貴’s 味わいコメント「レモン、スイカズラの花が香り、スモーキーさもある。キリキリとした酸味、中盤からはミネラル感が支配的となり、軽快な印象。マコネ地区らしさを超える個性で、『マコネは広いな』と感じさせてくれる好例です」

マコン・ヴェルゼ ルージュ 2022
ドメーヌ・ド・ラ・ジョブリーヌ
品種:ガメイ
マコネ地区のやや南寄り、谷の中心に位置するマコン・ヴェルゼ村。土壌は全体的に石灰岩と泥灰岩がメインで、ときおり鉄分の多いエリアも見受けられる。生産比率は赤ワインより白ワインが多い産地ではあるものの、赤はエレガントなミディアムボディタイプで、日本では「軽くて早飲み」といったガメイの印象を変えてくれる。
紫貴’s 味わいコメント
「サワーチェリー、ゼラニウム、ベイクドスパイスが香り、また紫蘇や小梅に似たニュアンスも。ピュアで豊かな酸、なめらかなタンニンで、洗練された印象です。チェリーを頬張ったような、透明感のある果実味が素直においしい」

マコン・ピエールクロ アプソリュ・ガメイ ルージュ 2022
メゾン・ジェラルディーヌ・ルイーズ
品種:ガメイ
マコネ地区のやや南寄り、谷の中心に位置するマコン・ヴェルゼ村。土壌は全体的に石灰岩と泥灰岩がメインで、ときおり鉄分の多いエリアも見受けられる。生産比率は赤ワインより白ワインが多い産地ではあるものの、赤はエレガントなミディアムボディタイプで、日本では「軽くて早飲み」といったガメイの印象を変えてくれる。
紫貴’s 味わいコメント「サワーチェリー、ゼラニウム、ベイクドスパイスが香り、また紫蘇や小梅に似たニュアンスも。ピュアで豊かな酸、なめらかなタンニンで、洗練された印象です。チェリーを頬張ったような、透明感のある果実味が素直においしい」

紫貴あき
ソムリエ | ワイン講師
日本最大級ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」では「Wine Scholar Guild認定 French Wine Scholar 資格取得講座」など数々の人気講座を担当。「2016年第10回ワインアドバイザーコンクール」優勝のほかコンクール入賞経験、また取得したワイン認定資格も数知れず。

紫貴ソムリエがジャッジ、ご当地ペアリング!


福岡県 ぬかみそ炊き   
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マコン・シャルドネ クロ・ド・ラ・クロシェット ブラン 2022
レ・ゼリティエ・デュ・コント・ラフォン

小倉地区に伝わる郷土料理。サバやイワシといった青魚をまずは醤油やみりんなどで煮たのち、ぬか床を入れてじっくり煮込む。「ぬかの香りはホンノリとするくらいで、青魚の生臭さが抑えられています。これくらいの香りのパワーなら、マコン・シャルドネが包み込んでくれますし、またワインのキリッとした感じも楽しめます」(紫貴)

佐賀県  シシリアンライス 
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マコン・シャルドネ クロ・ド・ラ・クロシェット ブラン 2022
ドメーヌ・レ・ゼリティエ・デュ・コント・ラフォン

平皿に炒めた肉と野菜を盛り付け、マヨネーズをかけたもの。飲食店のまかないからスタートし、ネーミングについては「映画『ゴッドファーザー』にちなんだ」「長崎のトルコライスに対抗」などなど諸説あり。店によって味付けは異なるでしょうが、甘辛い肉が濃厚なので、酸が強めのマコン・シャルドネを。生姜が効いていたり、後からレモンを絞ったりしたら、もっとワインと同調できます」(紫貴)

長崎県  皿うどん 
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マコン・シャルネイ・レ・マコン クロ・サン・ピエール ブラン 2023
ヴェルジェ 

肉、海鮮、野菜、かまぼこなどを炒めて餡でとじたものを、パリっと揚げた麺の上にかけた皿うどん。ちゃんぽん考案者が、汁なしちゃんぽんとしてアレンジした料理だ。「片栗粉でとろみがついていて、具にも麺にも味がよく馴染んでいます。どこを食べてもコクを感じるので、木樽熟成の風味と厚みがある白ワインが好ましいです。さらに後味はさわやかがほしいので、マコン・シャルネイ・レ・マコンがピッタリ」(紫貴)

熊本県 サラダちくわ
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マコン・ヴェルゼ ルージュ 2022

ドメーヌ・ド・ラ・ジョブリーヌ

ちくわの穴にポテトサラダをぎっしり詰めて天ぷらに。熊本ではスーパーの総菜売り場、定食屋、居酒屋などで見かけるメジャーな郷土料理だ。「ちくわサラダ」「サラダちくわ天」と呼び名もいろいろ。「ちくわの中のポテトサラダがわりとスパイシーでした。白ワイン、赤ワイン、どちらもいけそうなので迷いつつ、スパイシーつながりでマコン・ヴェルゼ推し。これなら、天ぷらのオイリーさとも釣り合います」(紫貴)

大分県 とり天 
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マコン・ヴェルゼ ルージュ 2022
ドメーヌ・ド・ラ・ジョブリーヌ

鶏肉料理が豊富な大分県の名物。鶏肉に天ぷら用の衣をつけて揚げたもので、片栗粉や小麦粉をつけて揚げる唐揚げとは別物である。一般的には鶏もも肉を使い、ポン酢などにつけて食べる。「肉に下味をつけていない分やや淡泊ではありますが、揚げ物ならではのリッチ感があるので、赤ワインで調和させましょう。大分でよくみられる甘めの醤油、またトンカツソースなどをつけても、また面白くなりそうです」(紫貴)

宮崎県  霧島黒豚角煮 
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マコン・ピエールクロ  アプソリュ・ガメイ  ルージュ  2022
メゾン・ジェラルディーヌ・ルイーズ

宮崎と鹿児島の県境にある霧島で育つ黒豚は、イギリスのバークシャーの血統を守り、脂の甘さとモチモチ食感が特徴。イノシシに似た野性味も感じられるとか。「黒豚をしっかり甘辛く味付けした角煮は、濃厚な味わいでゴージャス。その力強さと相対するのは赤ワインです。とくにマコン・ピエールクロは凝縮感がありつつ、テクスチャーはスルっとしているので、よく煮込んだ肉質と一緒にとろけてくれます」(紫貴)

鹿児島県 ぶり大根(ぶりあら炊き) 
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マコン・ピエールクロ  アプソリュ・ガメイ  ルージュ  2022

メゾン・ジェラルディーヌ・ルイーズ

ブリの生産量が日本一の鹿児島。水深が深い鹿児島湾での養殖技術が発達し、時期に関わらず安定して入手できる。そんなブリと桜島大根で作るぶり大根は、鹿児島らしい冬の名物料理だ。「よく煮詰めてあればあるほど、魚の生臭さは完全に消える、ブリ大根。みりんや砂糖の甘さ、しょうゆの香ばしさがあると、果実味豊かでリコリスの香ばしさがあるワインがちょうどいい具合にハマりますよ」(紫貴)

紫貴ソムリエが「マコネ地区、九州グルメご当地ペアリング! を終えて
「マコネ地区de深掘りペアリング」で気づけたこと
Part 1の“ブルゴーニュ+地理的表示”に続き、Part 2では“マコン+地理的表示”なワインが並び、「ん!知らない名前ばっかりだ!」と引いてしまった人へ。
「マコンのラベルに記される地理的表示名は、ワイン資格のために勉強している人でもすべて網羅はできないでしょう。でも、ブルゴーニュワインがこうした小さな地名までわざわざラベルに記すのは、土地の個性を表現したいからにほかなりません」(紫貴)
そう、“+地理的表示”とついているワインは、その産地のこだわりを生産者が大切にしている証であり、そんな熱い生産者が造るワインだという証でもあるのだ。
「だから、村名ぜんぶ丸暗記なんてしなくて大丈夫ですよ。普段は、ワインに詳しいショップのスタッフに相談しながら買い物すれば、自分の希望に沿ったブルゴーニュワインが入手できるんですから」(紫貴)
ワインビギナーはまず、自分の出身地や自分の好きなご当地グルメをきっかけに、ブルゴーニュワインへの第一歩を。そして、もし心の底からおいしいと感じられるワインに巡り合えたら、地区や村の名前をちょ~っとチェックしよかな~……くらいの心持で、“地理的表示”の世界を楽しんでいこう!


  • 記事を書いたライター
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山本ジョー

ライター。2000年よりワインや食にまつわるテキスト制作を請け負ってきたが、ときおりタレント本や鉄道本にも携わる。 畑で細々と野菜を作り、猟師から獲物を分けてもらうカントリーライフを堪能中。 好きなものは旅、犬、カジュアル着物。 小型船舶免許1級を取得して以来、船の操縦経験ゼロ歴を更新し続ける「なんちゃって船長」でもある。

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