文/山田 靖
トスカーナの陽光と海風に育まれたイタリアの名門ワイナリー「オルネッライア」。そのフラッグシップワインは、世界のワインラヴァーを魅了し続ける“芸術的な味わい”で知られている。“芸術的”と言われるのは、オルネッライアがワイン造りにおいて芸術的要素を取り入れている、その精神的な部分に所以があるのではないだろうか?
その真価が最も際立つのが、「Vendemmia d’Artista(ヴェンデミア・ダルティスタ)」というプロジェクト。今年で17回目を迎えたこの取り組みは、アートとワインという異なる分野の才能が出会い、ヴィンテージごとの個性を芸術作品として表現するという、まさに“飲むアート”の世界でもある。
その年のワインに“ひとつの言葉”を
ヴェンデミア・ダルティスタは、2006年ヴィンテージからスタート。毎年、ひとつのキーワードを選び、それをテーマに、世界的に活躍する現代アーティストに作品制作を依頼している。今年2025年のテーマは「La Determinazione(ラ・デテルミナツィオーネ)=決意」。この言葉にインスピレーションを受け、カメルーン出身の現代美術家パスカル・マルティン・タイユーが作品を手がけた。
タイユーの作品は色彩とエネルギーに満ちた表現で知られている。彼がこのプロジェクトに込めたのは、“植物のライフサイクル”という視点だという。つまり、種が芽を出し、気候に適応しながら花を咲かせ、やがて実を結ぶ——その過程には、生命の「決意」が詰まっているという思いが込められている。それはまさに2022年ヴィンテージの物語そのものだったというわけなのだ。
ラベルが語る、目に見えない“意志”
750mlの通常ボトルには、色とりどりの記号が放射状に広がるデザイン。それは、バラバラに見える要素が結びついたときに生まれる「内なる力」を象徴している。

一方で、ダブルマグナム(3L)になると、砂漠のひび割れた大地から芽を出す植物の写真が登場。それぞれのラベルが唯一無二であり、自然の厳しさの中に芽生える希望を語りかけている。そして、さらに大容量のアンペリアル(6L)とサルマナザール(9L)のボトルでは、リサイクル素材を用いた彫刻作品が装飾され、まるで美術館に展示されるインスタレーションのような存在感を放っている。





そしてそれらのボトルは彼のアート作品同様に余白と響きを持っている。「ワインは、特別な音楽のようなもの。人々を結びつける力を持っている」と語るタイユーの言葉のとおり、ワインという中身だけではなく、それらのボトルは飲むためではなく、“感じる”ためにも存在していることを再確認させてくれるだろう。
慈善オークションへ。アートが未来を守る
この特別なビッグボトルたちは、6月12日から24日まで、由緒あるオークションハウス「ボナムス」のオンラインオークションで競売にかけられる。そして収益はすべて、ニューヨークのグッゲンハイム美術館を運営するソロモン・R・グッゲンハイム財団へ寄付され、展覧会の修復・保存活動などに使われることになっているのだ。
また、ヴェンデミア・ダルティスタのオークション収益は、視覚に障がいのある人がアートを体験できる「マインズ・アイ」などのプログラムにも活用されてきた。ワインをきっかけに、世界中の人々が芸術へアクセスできる未来が広がっている——それはまさに、それこそが、オルネッライアの「決意」とも受け取れる。
気まぐれな天候が育んだ“凝縮された”奇跡
さて、ここで主役である2022年ヴィンテージの話を少し。ワイン造りにとって決して容易な年ではなかった。2月から6月にかけては過去4年で最も雨が少なく、続く5〜9月には記録的な暑さ。ブドウの生育は一時的に停滞し、収穫量も減少。しかし、8月末から9月にかけての恵みの雨が、奇跡のようにバランスを取り戻し、小粒で凝縮感のある高品質なブドウが育ったという。丁寧に手摘み収穫された後、さらに二度の選果。そして、生まれたワインは、太陽の恵みをたっぷり受けた力強さと、フレッシュでエレガントな個性を併せ持つ仕上がりに。例年よりも「プティ・ヴェルド」の比率を増やしたことで、2022年ヴィンテージならではの活力とエネルギーが感じられる味わいに仕上がっている。
「決意」は、飲んで、眺めて感じるもの
オルネッライアの社長、ランベルト・フレスコバルディ侯爵は、「決意」を表現したアートに深く感動したとも語っている。自然と人のつながりを大切にする彼らの哲学と、アーティストの世界観が重なった結果、ただのコラボレーションではない「ひとつの生命体のような作品」が今回も誕生したのかもしれない。
ワインをアートとして楽しむという体験。そこに宿るのは、たったひとつの言葉を巡るストーリーと、作り手の情熱、そして飲む人の想像力なのかもしれません。今年の「オルネッライア 2022」と、そこに宿る“決意”に、ぜひグラスを傾けてみたい、とはあなたは思いませんか?
タイユーが手がけた14本の希少なアートボトル(アンペリアル・ボトル10本とサルマナザール・ボトル1本を含む)は、世界最古の美術品オークションハウスの一つ、ボナムスの主催により、2025年6月12日から24日午後2時(グリニッジ標準時)まで、オンラインオークションで販売される。詳しくは下記(外部サイト)をタップ。
www.bonhams.com/ornellaia