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WINE

島がつくる、甘美の極み― ドンナフガータ「ベンリエ」

文/紫貴 あき

紫貴あきの「今夜」ワインが飲みたくなるはなし 26 the glass of wine

「島」というだけで心躍るのはなぜでしょうか。 吹き抜ける海風、潮の香り、そしてその地に息づく独特な文化と歴史。島には、ほかでは見られない特別な景色と時間がありますーーそう「島ワイン」には、自然の力と人の知恵がぎゅっと詰まっているのです。

地中海の風の子
アラビア語で「風の子」を意味する「ベンリエ(Ben Ryé)」は、シチリア島の名門ドンナフガータがパンテッレリア島で手がける、まさに「島の宝石」のような甘口ワインです。グラスの中できらめく黄金色、トロピカルフルーツやハチミツを思わせる豊かな香りは、太陽の恵みを感じさせます。けれど、口に含むと驚くほど軽やか。砂糖でつくられた甘さでは醸すことができない、ブドウそのものが育んだ自然でピュアな甘みを感じます。

自然の奇跡

このワインがつくられるパンテレッリア島は、シチリア本島の南西に浮かぶ小さな島です。アフリカ大陸にもほど近く、吹き荒れる風と強烈な日差しが特徴の火山島です。そんな厳しい環境の中で、ブドウは驚くほど低い位置で育ちます。風に倒されないように、農家は地面を掘ってブドウを植え、株仕立てで育てる「Alberello Pantesco(アルベレッロ・パンテレッスコ)」と呼ばれる伝統栽培法。2014年には、ユネスコの無形文化遺産にも登録されました。まるで大地に寄り添うように這うその姿は、自然と人の知恵の共作です。

パンテッレリア島

アラブからやってきた甘美なるブドウ

使用されるブドウは、モスカート・ディ・アレッサンドリア(別名ジビッボ)。日本でも「アレキ」の愛称で親しまれる食用品種ですが、実はこのブドウ、アラブの文化と深いつながりがあります。「ジビッボ(Zibibbo)」という名は、アラビア語の「zabīb(ザビーブ/干しブドウ)」に由来。イスラム教では公の場で酒を飲むことが禁じられていたため、ブドウはワインではなく干しブドウとして親しまれていたのです。

二度の収穫が生む特別な味わい

収穫は2回に分けて行われます。最初に収穫されたブドウは天日で干され、甘みと香りが凝縮した干しブドウに。その後、2度目に収穫されたフレッシュなブドウの果汁で発酵が始まったタイミングで、この干しブドウを加えます。そうすることで、凝縮感のある甘みとフレッシュな酸が調和し、「ベンリエ」特有の奥行きある味わいが生まれるのです。人工的な甘み成分添加に頼らず、自然が育んだ糖分と香りだけで仕上げられる。だからこそ、このワインには「つくり込まない、ピュアな甘み」が息づいているのです。

甘口の概念がきっと変わる

風と太陽、火山の土壌、そして職人のようなつくり手の丁寧な仕事が生んだ、生命力そのものを感じさせる甘口ワイン「ベンリエ」まさに「飲む芸術品」なのです。 もし「甘口ワインは苦手」と思っているなら、この「ベンリエ」が、その固定観念を軽やかに覆してくれることでしょう。

ベン・リエ・パッシート


生産者:ドンナフガータ
生産国:地域/イタリア:シチリア州パンテレリア島
品種:ジビッボ(モスカート・ダッレサンドリア)
参考価格:13,200 円(税込)【2022年ヴィンテージ】

香りはアプリコットやオレンジピール、アカシアやナッツのように複雑。味わいは濃密ながらも塩のようなミネラル感があり、驚くほどすっきりしています。デザートだけでなく、チキンのオレンジソース、豚の角煮とも好相性。食後に少しだけ口に含むと、自然の恵みを静かに感じることができます。

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紫貴あき

ソムリエ | ワイン講師 日本最大級ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の人気講師。 丁寧なレッスンは、 初心者から上級者まで わかりやすいと評判。 著書に『ゼロからスタート!紫貴あきのソムリエ 試験』( KADOKAWA)。この夏には、かんき社から『ワイン図鑑』を出版予定。

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