文/紫貴 あき
紫貴あきの「今夜」ワインが飲みたくなるはなし 29 the glass of wine
「チョコレートに合わせるワインは決まった?」「いや、無理してチョコレートにワインを合わせる必要はないんじゃない」。
2月になると、どこからともなくそんな会話が聞こえてきます。たしかに、個性の強いもの同士。ともすれば口の中で喧嘩をしてしまうことがあるからです。
しかし、そんな常識が通用しない町がフランスにあります。食の都、リヨン。ここでは、ワインとチョコは食卓におけるあたりまえなのです。
食の都リヨンが育んだ「食卓全体を考える感覚」
リヨンは、ローヌ川とソーヌ川が合流する交通と交易の要所として発展してきました。
「ブション」と呼ばれる地元の日常食を提供する小さな料理店に代表されるように、食を大切にする文化が根づき、「料理人の町」としても知られています。 リヨンの人たちは、食べ物を「ただ美味しければいい」とは考えていません。どんな料理が、どんな場面で、どう食べられるか。そこまで考えるのが、リヨンの食文化です。料理もワインも、単体で主張するのではなく、食事の流れの中で「調和」していることが評価されます。こうした「食卓全体を考える感覚」が、リヨンの食文化の土台にあります。

カカオは育たないのに、チョコレートの町?
ベルナシオンやヴォワザン、スヴェ、フィリップ・ベルといった名だたるショコラトリー(工房兼ショップのこと)がリヨンには軒を連ねています。しかし、意外なのは、リヨンではカカオは一切取れないことです。カカオは熱帯の作物で、フランスの気候では栽培できないからです。
それでもリヨンがチョコレートの町として知られるのは、交易によって良質なカカオが集まり、菓子職人たちの高度な技術によって磨かれてきたからです。絹織物産業に象徴されるように、リヨンは昔から「加工」と「表現」を得意とする町。チョコレートもまた、その延長線上で発展してきたのかもしれません。
「苦味の良さ」がわかるチョコレート
リヨンのチョコレートの大きな特徴は、甘さが控えめで、カカオの苦味や香ばしさ、余韻の美しさが表現されています。そのため、リヨンのチョコレートは「デザート」というよりも「味わう食品」。ワインと並べても、どちらかが主張しすぎることがないのです。
またフランスでは、子どもの頃から「苦味の良さ」を知る食育が行われていることも、興味深いポイントです。リヨンのチョコレートは、そんなフランスの食文化に自然に寄り添う味わいなのです。
リヨンのチョコレートに合わせたいワイン
ここで合わせたいのが、リヨンのすぐ北に広がるボージョレー・ヴィラージュです。
ガメイという品種からつくられるこの赤ワインは、赤い果実を思わせるフレッシュな香りと、穏やかなタンニンが特徴です。重すぎず、酸があり、後味は軽やか。甘さ控えめでビター寄りのチョコレートと合わせると、チョコの苦味をワインの果実味がやさしく寄り添い、口の中が重くなりません。
バレンタインからはじめてみよう
一粒のチョコレートと一杯のワイン。まずは難しく考えないで、リヨンの食文化に思いを馳せながら、バレンタインに、ワインとチョコレートの新しい楽しみ方を見つけてみてみませんか。
À la Saint-Valentin ! (バレンタインに乾杯!)
オススメのワイン

ボージョレー・ヴィラージュ/ロシェット
捥ぎたてのイチゴ、シナモンの香り。やわらかな果実味とフレッシュな酸が心地よい。
品種/ガメイ100%
参考価格/2,640円(税込)
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