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ドン ペリニヨンの元醸造最高責任者、リシャール・ジョフロワ氏による IWA 5の第4弾、アッサンブラージュ4 完璧なバランスと複雑さ

世界的な建築家である隈研吾氏が設計した酒蔵が富山にある。富山駅から車で小一時間ほどの高台、立山町の白岩地区。その蔵は田んぼに囲まれている。リシャール・ジョフロワ氏と隈研吾氏は、ドン ペリニヨン時代からの旧知で、この場所選びからともに行ったという。蔵の中にある広々とした土間は醸造スペースとガラス越しに見える田んぼの間にあり、「ひとつ屋根の下」をコンセプトに建てられた。立山連峰も海も見える日本らしい風景の只中にある。

「IWA 5」の命名は地名の白岩に由来している。「世界への発信には、Sense of Placeが必要。そして原点が行き先でもある」とリシャール。ちなみにこの白岩からは、地元の有名な陶芸である越中瀬戸焼きの作家が血眼になって探す白い粘土が採れるそうだ。作家のひとりはあのスティーヴ・ジョブズのお気に入りだったとか。また、バランスと調和を示す普遍的な数字「5」を添えている。

土間から見える醸造施設には、イタリア製の最新ステンレススティールタンクがずらりと並んでいる。ワイン用のタンク32基だ。米などの移動はすべて重力による。3種類の米を4か所の産地から取り寄せ、5種類の酵母を使用して醸造する。生酛が大変を占める。さらに、シャンパーニュでいうリザーヴワインならぬリザーヴ酒も貯蔵している。毎年の新しい仕込み分とリザーヴを合わせて 40〜50種類に及ぶ個性の異なる酒から20種類以上を選び、緻密なブレンドが行われる。ブレンドには3週間を要するようだ。

「日本全国に蔵元は1,300ほど存在する。しかし、どの蔵の設計もひとつとして同じものがない。そしてそのレイアウトは、酒質やスタイルに影響を及ぼす。酒にとってのテロワールとは、水・人・蔵のレイアウト・マイクロフローラ(微生物叢)・造りだ」とリシャールは語る。

さまざまな意味で日本酒の常識を覆す「IWA5」は、複雑なブレンドが完成した後、最低1年半熟成させてからリリースする。つまり、2023年秋にリリースされた「アッサンブラージュ4」のベースとなる原酒は2021年に収穫された米によるもの、という計算になる。

「毎年デザインは変わる。新しいパラメーターを加えて、あえて少しずつ変えている。だから、毎年新しい発見をして楽しんでほしい」。第1弾、第3弾と「アッサンブラージュ4」を比較すると、その言葉通り個性が異なることに気が付く。

第1弾にはシャンパーニュを連想させるようなフレッシュな酸を感じるのに対し、第3弾は力強くリッチな印象。そして最新の「アッサンブラージュ4」はバランスが秀逸だ。リシャールがドン ペリニヨン時代に使っていた「シームレス」という言葉を用いたくなる。独特のテクスチャーで、余韻に花と果実、そして米粉を思わせる上品な香りが長く続く。

「甘味、苦味、酸味、うま味のバランス、それとともに余韻の長さ、深みと複雑性も追求した。ワインでも酒でも深みや複雑性を得るのは簡単ではない」。

日本酒の世界では上級の大吟醸において香りに重きを置くことが多い中、味わいにもこだわり抜いた結果、完璧なバランスと複雑性を得るのに成功した。

「複雑性があるため、さまざまな食がIWA 5のさまざまな側面を引き出してくれる。逆に言えばIWA 5は食を超えることもなく、沈ませることもなく、食の個性に合わせてバーを上げ下げする柔軟性がある」。アッサンブラージュ4はバランスが良いあまりに、軽やかで飲みやすく、軽快に感じられる。それに加えて料理との相性も存分に楽しめるため、飲み過ぎ食べ過ぎには要注意だ。

ちなみに、「アッサンブラージュ1」の熱燗(40〜50℃)も供された。テクスチャーがよりなめらかになり、酸の伸びが綺麗で余韻はまろやかに感じられる。冷酒とはまったく別の表情を見せる。

「IWA 5」は、第1弾から毎年それぞれの個性を有している。それは同時に進化を遂げている証でもあり、ロック・クライミングのように、点と点をつなげられるようになり、手持ちの札が増えているからだという。

「だから、マジシャンのように皆さんに驚きを与える準備も整い始めている」と、リシャールは満面の笑みで語った。今後の新作も待ち遠しい。(Y. Nagoshi)

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