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氷温で熟成した、ワインのように優美な日本酒を豊かな自然に囲まれ五感で味わう

取材・文/近藤さをり

気に入った酒に出会うと、それが生まれた場所を訪ねてみたくなるもの。そこに素晴らしい景観があり、地域との接点が持てたりしたら、ぐっと愛着が湧く。ワイン生産地で、それを経験したワインラバーも多いのでは?

日本酒の構成要素の約8割が水だ。主原料の酒米は地場産とは限らないから、その酒の地域らしさが最も出るのは、仕込み水。群馬県の川場村にある永井酒造の水源地は、利根川源流域の深い森の中にある。長野県須坂の士族だった初代は酒造を始めるにあたり、ここの水に惚れ込んで移り住み、未来のための投資として周囲の森林を所有。名峰武尊山の雪解け水が伏流水として湧き出る水源の水は柔らかな口当たりの軟水。地下に染み込み30年かけて濾過された水が蔵のある場所に届くまでに豊富なミネラルを含むものとなる。

水源の川から掬い取った水を飲んだ記憶が消えないうちに、蔵の敷地内に引かれた仕込み水を味わってみると、鉱物系のミネラル感が舌の上に残る。蔵を見学に来たフランスのソムリエにブラインドで比較試飲させた際、軟水であるにも拘わらずエビアン(硬水)と間違えたという。このテクスチャーが、日本酒「水芭蕉」のピュアな味わいを支えるバックボーンとなっている。こうした世界観を体感できる施設が、今年8月にオープンした。

テイスティングとラボを併設した「SHINKA」は、真価への挑戦、進化する酒造り、深化させる関係性を築く場だ。6代目蔵元永井則吉社長と夫人の永井松美取締役が出会ったワインツーリズム最先端の地、ナパヴァレーからインスパイアされ誕生した。 窓からは、川場村を象徴する里山の風景が見渡せる。標高500~600mにある田んぼは長い日照時間、大きな昼夜の寒暖差に恵まれ、特産米の雪ほたかは様々なコンクールで常に受賞する品質を誇る。こうした里山の田園風景を守ったのは現蔵元の父だ。31歳の若さで村長となり、ヨーロッパの村々を視察した後、農業と観光とを両立させるため景観条例を制定した。今から50年も前のことだ。開発に制限を設け自然を守る方針はナパヴァレーと相通ずるものがある。こうしたサステナブル精神は、蔵のそこかしこに現れている。森林資源を建材に使用し、テイスティングルームの家具は鉄釘を使わない木組み、大きな山桜の食卓のテーブルセンターには雪ほたかの籾殻を漆で固めたプレートが。

このスペースの利用は、1日1組限定の完全招待制。SHINKAのオープンを記念して発売した熟成酒を購入すると、1本につき1回分の招待状が付いている。対象の商品は、写真左から「MIZUBASHO VINTAGE 2008大吟醸 (税込希望小売価格19,800円)」「THE MIZUBASHO PURE 2008 (同33,000円)」「MIZUBASHO VINTAGE 2008(税込希望小売価格39,600円)」。専用サイトにアクセスし、商品のシリアルNo.を入力して予約する仕組みだ。

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招待のスタンダード・プランに含まれるのは、永井酒造の真骨頂であるところのスパークリング日本酒と熟成酒、そして一般流通していない小ロットで醸したラボ SAKEのテイスティング。希望により、別料金でフードペアリングも楽しめる。3種の酒に合わせ、発酵をテーマに地元あるいは旬の素材を活かしたアミューズブーシュが提供される。夏のメニューの一例を紹介しよう。

MIZUBASHO PURE × 雪ほたかの冷製スープヴァイオレット
瓶内二次発酵のスタンダードキュヴェ。パンの代わりに雪ほたかを使い、地場物のブルーベリーとこんにゃくも。米の甘みを湛えたシルキーな泡酒がスープの酸味をやさしく包み込む。

ラボ SAKE × 夏野菜のサブレ白味噌仕立て
2週間前に仕上がったばかりのフレッシュな生原酒。三層のサブレのベースには発酵食品であるチーズを、上層は窓から見える水田のイメージで、天狗印の弥勒枝豆を。その間にはゆきほたかの塩麹で発酵、酒粕で蓋をして熟成した自家製味噌。新酒の持つリンゴやバナナの果実味とマッチする。

MIZUBASHO VINTAGE 2008 × 豚フィレ酒粕マリネ
マイナス3~5度でゆっくりと熟成した大吟醸酒。
酒造の酒粕と塩麹に漬けた下仁田ポークに、酒の熟成香を引き出すためシェリービネガーを使った海藻のジュレを添えた。室温で供出した熟成酒が徐々に開いていく変化を楽しみながらじっくり味わいたい組み合わせだ。

新施設SHINKAは、基本的に蔵元夫妻のどちらかが応対できる日に訪問客を受け容れる体制だ。海外の最高のもてなしはオーナー夫妻の家に招くこと、というコンセプトに基づいているからだ。東京から最寄り駅の上毛高原駅まで約1時間。そこからは車での送迎が付く。日帰り可能な、ちょっとした大人の遠足だ。泊りがけでの訪問なら、近くの宿泊施設を酒造が紹介してくれる。そんなホスピタリティが、ここにはある。

-SHINKAの利用について-
1日1組限定
利用方法/8月1日より販売されている2008熟成酒シリーズに同封の招待状記載のQRより申込みが可能。
所在地/ 群馬県利根群川場村門前713
TEL/0278-52-2311
https://shinka-nagai.jp

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近藤さをり

ワイン&グルメPRスペシャリスト。ドイツで日本企業のワイン仕入・販売に従事したのち、現地ワイナリーに勤務しブドウ栽培と醸造を学ぶ。帰国して洋酒メーカー広報部、PR会社勤務を経て現在に至る。カリフォルニアワインのPRに十数年携わる間も、執筆活動は国やジャンル問わず、美味しいものなら何でも・・・のつもりだが、振り返るとアルコール飲料が殆ど。JSA認定ソムリエ、ジャパンビアソムリエ協会認定ビアソムリエ。

  1. 氷温で熟成した、ワインのように優美な日本酒を豊かな自然に囲まれ五感で味わう

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