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時を選ぶ美意識。シャンパーニュ・サロン、2015年という「復活のヴィンテージ」

文/山田 靖 写真/全て©cLeif Carlsson

最高の年にしか造られない」という、いさぎよさ

シャンパーニュ・サロンは、つねに「時を選ぶ」メゾンである。
シャンパーニュ・サロンは、つねに寡黙でもある。
ル・メニル・シュール・オジェ村という単一クリュ、シャルドネ100%。そして「偉大な年」にしか造られないという、気の遠くなるほどストイックなルール。その姿勢は、流行や量産とは無縁の、ある種のカウンターカルチャーにも映る。

1905年、創設者エメ・サロンが自分と友人のためだけに造ったシャンパーニュは、やがて1920年代の美食家たちの間で“密かな憧れ”となった。以降120年、サロンは45回しかヴィンテージを打っていない。2015年は、その45回目にあたる。
ディディエ・ドゥポン社長が「再生」「復活」という言葉で表現するこの2015年は、単なる優良年ではない。過去を踏まえ、未来を見据えた、サロンの哲学が明確に結晶したヴィンテージだ。

来日しメディア向けセミナーで語るディディエ・ドゥポン社長

気候変動という現実と、メゾンの美意識

ここ数年、シャンパーニュ地方は明らかに変わった。
収穫はかつての9月末から、8月末〜9月初旬へ。冬は温暖になり、夏は乾燥と高温が常態化する。サロンの社長ディディエ・ドゥポンは言う。「気候は選べないが、収穫日は選べる」。

2015年は、その判断が問われた年だった。
暖かい冬、高湿度の春、灼熱で乾いた夏。秋口の豪雨の後、収穫期には太陽が戻り、ル・メニル・シュール・オジェのシャルドネは、静かに、しかし確実に成熟していった。サロン2015は、変わりゆく自然と、変わらない哲学が交差した地点に生まれている。

若くして開き、なお未来を語る味わい

若いサロンは、閉じている――それが通説だ。
だが2015年は違う。グラスに注げば、きらめくゴールドの色調。白い花、菩提樹、スイカズラの香りに、白亜質のミネラルが一本の線として走る。泡はきわめて細かく、口に含めば塩味と張りのある酸が、エレガンスと緊張感を同時に描く。

驚くべきは、その“いまの美味しさ”だ。
若々しく、ピュアで、すでに飲み手を受け入れる懐の深さがある。それでいて、10年、20年、30年先を想像させる骨格も失われていない。際、より硬質だった2014年を後回しにし、2015年を先にリリースするという判断は、1988年を1985年より先に世に出した歴史的判断を想起させる。サロンが「時間」をどう考えているかを雄弁に物語る。

ラグジュアリーとは、時間をどう使うか

サロン2015は、派手さで語るシャンパーニュではない。
食卓に迎えるなら、まずは姉妹メゾン、シャンパーニュ・ドゥラモットのブラン・ド・ブランで感覚を整え、満を持してサロンを開けたい。キントア豚の生ハム、熟成したパルミジャーノ、大ぶりの牡蠣。素材の輪郭がはっきりした料理が、このワインのミネラルと共鳴する。

サロンが教えてくれるのは、「ラグジュアリーとは何か」という問いの、ひとつの答えだ。
それは価格でも希少性でもなく、時間をどう選び、どう待つかという態度そのもの。2015年のサロンは、いま飲んでもいいし、未来に託してもいい。その自由さこそが、もっとも贅沢なのだ。

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山田_yamada 靖_yasushi

Why not?マガジン編集長。長くオールドメディアで編集を担当して得たものをデジタルメディアで形造りたい。座右の銘は「立って半畳、寝て一畳」。猫馬鹿。年一でインドネシア・バリのバカンスはもはやルーティン。

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