文/山田 靖
「とりあえずビール」じゃなく「ワインのことはよく分からないけど、お店で頼むとちょっと気分が上がる」──そんな経験、ありませんか?
美味しい料理に合う一杯のワインは、それだけで食事の体験を格上げしてくれます。でも実は、そんな“素敵なワイン体験”を提供するのは、お店側にとってはなかなかハードルの高いことも想像に難くない。
「どんなワインを選べばいいか分からない」「ソムリエを雇う余裕はない」「ワインメニューを作るのも手間がかかる」──。こうした声に応えて誕生したのが、2025年春にデビューしたAIワインサポートシステム「ワイサポ」。
ワインがもっと身近に、そしてもっと楽しく。そんな新しい風を、飲食業界に吹き込もうとしているのが、株式会社ブロードエッジ・ウェアリンクが開発した「ワイサポ」だ。AIを活用し、飲食店でのワインの選定・仕入れ・接客・販促までをワンストップで支援する“ワイン業務DX”サービスとビジネスはいたってシンプル。
「ProWine Tokyo 2025」で初お披露目されたこのシステムは、ソムリエがいない店舗でも“プロのような提案”を実現できるという、まさに業界の常識を覆す取り組みだろう。
たとえソムリエがいないお店でも“プロの提案”ができる
「ワイサポ」は、AIを活用して飲食店のワイン選びから仕入れ、さらには接客や販促までをトータルで支援するサービス。飲食店が抱えがちな「ワインを扱うのは難しい」という課題を、技術の力で解決することを目指している。

中でも注目なのが、AIソムリエ「Sommia(ソミア)」の存在。料理の写真や簡単な説明を入力するだけで、「Sommia」が最適なワインを即座に提案してくれる。
例えば、そのお店に「トマトベースの煮込み料理」や「グリルチキンのローズマリー風味」といった料理があったときに、味のバランスや価格帯を考慮した“はずさない”ワインを提示。しかも、英語や中国語などの多言語に対応しており、外国人観光客の多いお店でもそのまま接客に活用もできる。
「まるで本物のソムリエがそばにいるみたい」なAIソムリエ「Sommia(ソミア)」の提案力には理由がある。ワイサポを提供する株式会社ブロードエッジ・ウェアリンクには独自に開発された「38分類の味わいマップ」や、5,000本以上のワインデータ、さらに3万人のユーザーを抱えるワインアプリ「wine@」で蓄積された嗜好・消費データの活用がある。データと現場感覚の融合によって、「外さないペアリング」を支援するのがこのシステムのキモだ。
その膨大なデータを活かし、AIが学習し続けているため、「Sommia」は“機械だけど経験豊富なソムリエ”として振る舞えるとその自信をのぞかせている。
飲食店にとっての「ワイン」の価値を、もう一度見直すきっかけに
ここで注目したいのは、「ワイサポ」が単なる“便利なツール”にとどまらないこと。
実は、飲食店にとってワインという商品は、「利益率が高い」「客単価を引き上げやすい」「会話が生まれる」といったビジネス的にも魅力のある存在。しかしながら、選定や仕入れの難しさ、スタッフの知識不足などが理由で、「扱いたいけれど避けている」というお店が多いのが現実。
「ワイサポ」の導入によって、こうしたボトルネックが一気に解消されれば、今までワインに消極的だったお店でも新しい可能性が広がる可能性はある。たとえば、ワインをきっかけに常連のお客様との会話が増えたり、記念日利用のお客様に特別感を演出できたりと、店の魅力そのものを底上げする武器になり得ることは確かだ。
実際に、「ワイサポ」は「ProWine Tokyo 2025」で初披露され、飲食業界から高い注目を集めたという。「飲食店がもっと気軽にワインを取り入れられる時代が来る」と期待の声が多く寄せられたという。


ただ、忘れてはいけないことは AI時代のワイン体験に、求められるのはやはり“人の感性”
もちろん、AIが提案するワインと料理のペアリングが常に“完璧”とは限らない。
ワインの楽しみは、時に意外性であり、語り合いであり、人の感性が醸す余白にこそある。
「ワイサポ」の真の価値は、ソムリエAI「Sommia」が出す答えを鵜呑みにすることではなく、その提案を土台に、そのお店が自分の店のお客様にとって最も心地よい形に“編集”していける感性と責任を持つことにあるのかもしれない。
たとえば「うちの常連さんは、肉料理にはちょっと意外な白ワインを喜ぶんだよね」とか、「ペアリングよりも、会話のきっかけになる一本が欲しいんだ」といった、リアルな現場感覚を持った店ほど、このシステムを「武器」として使いこなせるはずだ。
AIという名のワイン提案を行っている企業はすでに多くあり、それ自体はすでに目新しいものではないが、いまひとつ、世の中に浸透していないように思う。しかし、AIがすべてを決めるのではなく、AIと人が一緒に作る“体験”の一部としてワインを提供する——そんな未来が、もう始まりつつあるのかもしれないし、だとしたら、そんな未来には期待したい。
だから「ワイサポ」は、ワインに自信のない店を助けるだけでなく、「もっとワインを楽しんでもらいたい」と願う店にとっても、心強いパートナーになっていくだろう。