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WINE

透明な味わい、明快な哲学。オーガニックカバ『ブルアン』の物語

文/紫貴 あき

紫貴あきの「今夜」ワインが飲みたくなるはなし 21 the glass of wine
「スペイン・カタルーニャ州のアレリャで生まれた1本のカバが、今、世界のオーガニックワインファンが大注目」

透明な味わい、明快な哲学。オーガニックカバ『ブルアン』の物語

地中海の風が吹き抜ける丘陵地、スペイン・カタルーニャ州のアレリャ。その美しい自然に囲まれた土地で生まれた1本のカバが、今、世界のオーガニックワインファンから注目を集めています。名前は「ブルアン ブルット ナトゥーレ(AA BRUANT Brut Nature)」。フランス語で“ホオジロ”(小さな野鳥)を意味するこの名は、畑の生態系と共に生きる自然農法への敬意を込めて名づけられました。

カバに新たな潮流 ― ゾーニングによるトレサビリティ

2020年、D.O.カバは品質向上と透明性確保のため、大きな改革に踏み切りました。それが「ゾーニング制度」の導入です。カバの生産地域を4つのゾーンに分類し、それぞれのテロワール(気候・土壌などの自然条件)の特徴を明確に表示するようになりました。

今回ご紹介する「ブルアン」は、地中海に面したSerra de Mar(セッラ・デ・マル)ゾーンで造られた1本。海風がもたらす心地よい涼しさと、Sauló(花崗岩質砂)というユニークな土壌が、繊細でミネラル豊かな味わいを育みます。

オーガニックの先を行く、「完全無添加」カバ

「ブルアン」が特別なのは、単にオーガニックであるというだけではありません。このワインは、酸化防止剤(亜硫酸)を一切添加せずに造られた、世界初のカバとしても知られています。ぶどうはすべて自社畑で有機栽培され、徹底した選果と衛生管理のもと、自然の力を最大限に引き出す伝統的な瓶内二次発酵で造られます。

熟成期間は最低24ヶ月。デゴルジュマン(澱引き)後も補糖(ドザージュ)せず、自然のままの風味がボトルに閉じ込められています。そのクリーンな味わいは、体にやさしいだけでなく、ブドウ本来のエネルギーをまっすぐに感じられる一本です。

味わいとおすすめのペアリング

グラスに注ぐと、淡いレモンイエローの色調と、繊細な泡が立ちのぼります。香りは青りんご、レモンの花、フレッシュアーモンドを思わせる爽やかなアロマに加え、ほのかにヘーゼルナッツのニュアンスも感じられます。

口に含むと、フレッシュで塩味を帯びたミネラル感と、トーストブレッドのようなふくよかさがバランスよく広がります。後味は長く、繊細な苦みと果実味が心地よく続きます。

合わせる料理としては、塩味を効かせたシンプルな前菜や、カルパッチョ、オリーブオイルを使った魚介料理、そして和食のなかでも天ぷらや塩焼きの魚などと好相性です。素材の風味を引き立てるクリーンな泡は、さまざまな料理と柔軟に寄り添ってくれます。

なぜ今、オーガニックカバなのか?

多様化が進むカバの世界にあって、「ブルアン」のような丁寧に造られたクラフトスタイルの存在は、これからの時代のワインの在り方に新たな視点を与えてくれます。サステナビリティへの意識が高まる今、ただ美味しいだけではなく、自然や人、そして土地との調和を大切にするワインがますます求められています。

「できるとは思っていなかったからこそ、やった」と語るのは、このカバを手がけるプジョル=ブスケッツ家の言葉。科学や設備に頼りすぎることなく、自然の摂理と真摯に向き合う姿勢から生まれたこの1本は、まさに純粋無垢な泡の結晶です。

透明で誠実な泡をグラスに カバに「自然と共にある」という新しい可能性を見せてくれる「ブルアン」。その一杯から感じられるのは、土地の記憶と造り手の哲学、そして未来への希望です。次の乾杯は、そんな1本で迎えてみてはいかがでしょうか。

ブルアン ブルット ナトゥーレ 2019
ワイナリー/フィンカ・ヴァルドセラセレール・デ・レス・アウス
生産国・地域/スペイン・地中海地方
品種/パンサ・ブランカ(チャレロ)
参考価格/4,290円(税込)

購入・詳細は下記をタップ(外部サイト)
La goulue(ラ・グリュー)

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紫貴あき

ソムリエ | ワイン講師 日本最大級ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の人気講師。 丁寧なレッスンは、 初心者から上級者まで わかりやすいと評判。 著書に『ゼロからスタート!紫貴あきのソムリエ 試験』( KADOKAWA)。この夏には、かんき社から『ワイン図鑑』を出版予定。

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