生粋のナチュラリストが、
チリ「コノスル」でワインを造るまで
自転車マークのラベルでお馴染みの「コノスル」。チリが自然派ワイン大国であると全世界に認知させた、最大級の立役者だ。2023年5月に来日を果たしたコノスルのチーフ・ワインメーカー、マティアス・リオスは、自らの若き日を「映画『スターウォーズ』で例えると、ジェダイの騎士気分だった(笑)」と振り返る。“正義の反乱軍”たるコノスルに入社した、その経緯とは?
イギリスの飲料業界誌『ザ・ドリンクス・ビジネス』にて「世界のワインメーカー100」のひとりに選出された。
生まれる前から運命は定まっていた
北に砂漠、東にアンデス山脈が連なる細長い国土のチリで、品種ごとに適した銘醸地を随所に構えるコノスル。どのブドウ畑でも、栽培スタッフは自転車移動が基本だ。環境への配慮からガソリン車の代わりに自転車を推奨してきたコノスルの理念が、ワインラベルにあしらわれる自転車アイコンにこめられている。 今でこそ「自然派が多い」「コストパフォーマンス良」として知られるチリだが、コノスルが創業した1993年当時は「チリワイン=安価なワイン」であり、質は二の次といった固定観念が蔓延っていた。「チリでプレミアムワインを」「最新技術を導入」「有機栽培」の目標を掲げたコノスルは、チリワイン業界において見事なまでの異端児。そんな黎明期のコノスルに2003年から参画したのが、マティアス・リオスだ。マティアスは、理念からスタートしたナチュラリストでなく、生来のナチュラリストである。
「まだ一丁前に会話もできない幼児の時分から、遊び場は家庭農園でした。馬に乗って森へ行くのも遊びの一環で、自然とは切り離せない生活を送っていたのです。となると、大学で農学部に進んだのも当然の選択。学問でも仕事でも自然と関わり続けるのは、母親のお腹のなかにいたころから決まっていた既定路線ですよ」
気温が高くなると、飲みたくなるのがソーヴィニヨン・ブランの辛口白ワイン。最高級シリーズの「コノスル ソーヴィニヨン ブラン 20バレル リミテッド エディション」に使われるブドウは、海に近く霧もかかる冷涼なカサブランカ・ヴァレー産だ。ソーヴィニヨン・ブランのクローン3種を一斉に手摘みで収穫し低温発酵することで、柑橘のフレッシュな香りや凝縮感、長い余韻を持たせている。
テロワールの精神をブドウからワインへ
大学でブドウ栽培を学び、一度は食用ブドウ栽培の道を志そうとしたが、見た目重視のブドウを追求する業界の姿勢に共感できず、マティアスは悩んだ。
「テーブルで食べる美しいブドウに、作為性を感じてしまって。いっぽう、ワイン用ブドウは見た目こそ整っていませんが、大地のスピリットを表現するワインに生まれ変われる。ならばワイン用のブドウを栽培しよう、ワインメーカーになろう、と進路を改めました」
マティアスが最初に籍を置いたのは、ボックスワインを主に手掛ける安価かつ大量生産型のワイナリー。ブドウを大地の表現者としたいマティアスにとって、凡庸なワイン造りはどうにもしっくりこない。そこで、あらためて自分なりにチリのワイナリーをリサーチしてみたところ、創立して10年に満たないコノスルがヒットした。オーガニックでサスティナビリティというコノスルのポリシーも、根っからのナチュラリストであるマティアスにとって十分に魅惑的だ。旧来のチリワインが抱えていたネガティブ・イメージをブチ壊しにかかるコノスルへ、マティアスはためらいなく仲間入りを果たした。
コノスルに来てからピノ・ノワールの奥深さを知ったマティアス。当初はカジュアルなタイプから手掛け、最高級「オシオ」を完成させるまで堅実に品質を高めていった。
ファミリー、そして人生の一部
「SF映画『スターウォーズ』に例えると、コノスルは宇宙を支配する帝国軍に立ち向かう反乱軍。となると僕は、敵の中枢であるデス・スターの裏側へ突き進み、攻撃を仕掛けるジェダイの騎士(笑)」
スターウォーズ好きのマティアスならではの言い回しから、コノスルの躍進とマティアスの奮闘ぶりが伝わる。
「コノスルに入社してから、ちょうどスタートしていた高品質のピノ・ノワールを造るプロジェクトに乗り、気付けば20年。もはやコノスルのワインはただのワインではなく、ライフスタイル、哲学でもあります。そしてコノスルに関わるすべての人は、ファミリー同然。ワイナリーのスタッフだけでなく日本のインポーターさんも含め、皆でコノスルのワインを支えてきたと思っています。思い返してみても、僕がコノスルのスタッフになれたのはラッキーでした。人生が180度変わった、というより、コノスルが人生の一部になった。コノスルは、僕にとって魔法のワイナリーです」
爆発的な人気をキープしたまま、メインストーリーは完結しつつスピンオフが今後も続く『スターウォーズ』シリーズ。全世界で圧倒的なシェア獲得に成功したまま、さらに成長を続けるコノスル。マティアス率いるコノスル軍は、この先にもまた新エピソードで消費者の期待値を軽々超えてくるに違いない。
「酸と塩気を感じるソーヴィニヨン・ブランには、セビーチェや牡蠣などと合います。また、冷やして単体で飲んでもおいしいですよ」とマティアス。セビーチェは南米でよく食される魚介と野菜のマリネだ。上述の20バレルシリーズよりお手頃価格ながら個性と品格の際立つ「レゼルバ・エスペシャル ヴァレー・コレクション ソーヴィニヨン・ブラン」とともに、ランチに、今宵のディナーに、楽しみましょう。