“先入観を外したとき、人は何を評価するのか”
取材・文/山本ジョー 写真/小松勇二
ボルドーだからおいしい。ブルゴーニュだから間違いない。有名な造り手だから期待してしまう――。ワインを選ぶ楽しさのひとつではあるが、その一方で、私たちは知らず知らずのうちに先入観とともにグラスを傾けているのかもしれない。
だからこそ、ブラインドテイスティングは面白い。ラベルも価格も産地も伏せた状態で向き合うとき、人は何を評価するのか。そして経験を積んだソムリエの目には何が映るのか。
こうした試みは、ワイン界では長い歴史を持つ。なかでも1976年、フランスとカリフォルニアのワインをブラインドで比較し、世界のワイン地図を書き換えた伝説的なテイスティング――後に「パリスの審判」と呼ばれる出来事――は今なお語り継がれている。
2026年5月。東京・日本橋で、若手ソムリエ4名によるブラインドテイスティングを実施した。テーマはシンプルだ。
「先入観を外したとき、人は何を評価するのか」。
その結果は、いまコストパフォーマンスの高いワインを探している人にとって、見逃せないものとなった。
今回のテーマはずばり「南アフリカワイン」の現在地。
「南アフリカ産ワインが評判いいのは知ってる。けど、いざ自分で買うのは別の産地ばかり」……日本から物理的に遠い南アフリカだけに、親しみを持ちづらいのは仕方ない。ただ、全世界のワイン生産量を見ると、意外にも常時10位以内にランクインしているのが南アフリカだ。にも関わらず日本での流通量が少ないのは、高品質ワインを見極める力に長けたイギリスが南アワイン全生産量の1/4をも毎年ガッポリ抱え込んでいるとの事情もあるのだろう。
ところで、1976年に開催されたブラインド試飲会「パリスの審判」で対決を果たしたのは、ご存じの通り、「ワイン造り約2千年の歴史あるボルドー」VS「新世界を代表するカリフォルニア」。そして南アフリカもまた、アメリカと同じく17世紀にブドウ苗を植樹して以来、ワイン造りは300年以上の長い歴史を誇る。今もっともブラインド対決させたくなる産地、それが南アフリカなのである。
飲み頃とコスパに注力する試飲評価を託された若手ソムリエ4名
「南アワインのリアルな立ち位置を知りたい」と企むWhy not?の思惑は伏せられたまま、呼び寄せられたのは注目度と期待が急上昇中のソムリエ4名だ。全員20代ながら、すでに仕事やコンクールで一定の成果を上げているという、なんとも聡明な面々である。

山本 麻衣花さん
「マンダリンオリエンタル東京」勤務。若手ソムリエの登竜門「ポメリー・ソムリエコンクール2023」優勝。「ナパヴァレー・ワイン・ベスト・ソムリエ・アンバサダー2025」受賞。

柳澤 悠さん
「コンラッド東京」勤務。「第15回J.S.A.ソムリエ・スカラシップ」候補生に選出。国を超えてヒルトン系列の社員同士で技術を競う「F&Bマスターズ 2025」ソムリエ部門にて優勝。

松田 悠希さん
半世紀続く老舗フレンチ「銀座レカン」勤務。調理技術にも長け、客前で鴨をスマートに捌く「カナルディエ」認定資格を取得。フランスワインほか、日本を含む諸国ワインの研究に励む。

等々力 竜輝さん
フランス留学から帰国後、日本各地のレストランやオーベルジュで経験を積む。現在はソムリエ業のほか酒屋やワインショップのためのコンサルタント、イベント企画・監修に従事。
今回のブラインドテイスティングの査定ポイント
事前に彼らへ伝えたことは、「ファインワイン11本をブラインド試飲し、100点満点で評価する」こと。さらに目安として、以下の2点を心得てもらった。
その1:ワインとしてのポテンシャルが高くとも、もし飲み頃のピークまで何年も待たなければならないタイプなら、あえてポイントは下げる。
その2:すべてのブラインド試飲を済ませ、予想価格を含むコメントを記入し終えた時点で、出題者は販売価格のみ開示。ソムリエ自身の予想価格と大きな差があれば、それを加味してポイントを再調整。
これらの条件は、ビギナーをも含めた一般のワイン愛好家に寄り添うためのものだ。まず、セラーを所有していない限り、家で何年もワインを寝かせておくのは難しい。また、ワインの価格と品質はほぼほぼ比例するものだが、どのレベルであれワイン好きがワガママに望むのは「価格以上の価値を見いだせるワイン」。つまり、「買ってからすぐ、おいしく飲める」「コスパがいい」ワインがより高評価になる工夫をプラスしたのだ。
Flight 1: 世界のシャルドネ勝負は南アのKWVが堂々2位

左から:ペンフォールズ/ビン 311 シャルドネ2018、ルイ・ジャド/ブルゴーニュ シャルドネ2023、ケイ・ダブリュー・ヴィ/カセドラルセラー シャルドネ2024、ブレッド&バター/シャルドネ2024
産地の実力を知るには、共通の国際品種で比較するのが手っ取り早い。そこで、白ワインの部に登場させる白ワインは南アフリカを含む4カ国のシャルドネで統一した。とはいえソムリエ4人は「シャルドネ縛り」であることすら聞かされていない状態でジャッジしている。以下の評価ポイントだけをざっと流し見れば、南アフリカのKWVは実に納得できる戦績を残したのが分かるはずだ。名だたる産地や造り手と堂々渡り合えるシャルドネだったのである。
ペンフォールズ
ビン 311 シャルドネ2018
平均点93(山本95/柳澤92/松田90/等々力95)1位
産地/オーストラリア:サウス・イースタン・オーストラリア
希望小売価格/6,534円
ルイ・ジャド
ブルゴーニュ シャルドネ2023
平均点84.75(山本85/柳澤83/松田85/等々力86) 4位
産地/フランス:ブルゴーニュ
希望小売価格/3,762円
KWV(ケイ・ダブリュー・ヴィ)
カセドラルセラー シャルドネ 2024
平均点89.5(山本90/柳澤90/松田88/等々力90) 2位
産地/南アフリカ:西ケープ州
希望小売価格 2,700円
山本「熟したマンゴー、パイナップルからナッツやサワークリームまで複雑に香る。ジューシーな酸と熟したトロピカルフルーツのフレーバーが口いっぱいに広がり、心地よい苦みのフィニッシュへと続く」(予想価格4,000円)/柳澤「青リンゴ、洋梨、ライムが香り、チャーミングな印象。口に含むと、さらに熟した杏やかりん、ナッツを思わせる香りも」(予想価格1,500円)/松田「香りはやや控えめな印象。きめの細かいテクスチャーがミネラル感と重なって長いフィニッシュへ。重くはないが、厚みのある味わい」(予想価格6,000円)/等々力「酸は穏やかながらストラクチャーがしっかりしていて、味わいと余韻のバランスがとれている」(予想価格5,000円)
ブレッド&バター
シャルドネ 2024
平均点85.25(山本80/柳澤85/松田84/等々力92) 3位
産地/アメリカ : カリフォルニア
希望小売価格/3,980円
Flight 2: 南アはほぼ倍のワインと並ぶ高評価

左から:バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド/レゼルヴ・ムートン・カデ・ポイヤック 2021、シャトー・ラトゥール・マルティヤック 2018、KWV(ケイ・ダブリュー・ヴィ)/メントーズ オーケストラ 2021、ロバート・モンダヴィ/カベルネ・ソーヴィニヨン ナパ・ヴァレー 2021
赤ワインの部は、カベルネ・ソーヴィニヨンもしくはカベルネ・ソーヴィニヨン主体のボルドー系ブレンドでズラリ揃えた。7本のうち、2本が南アフリカ産だ。ここでついに、前半ブロックにエントリーした南アフリカは、老舗ボルドーにも喰らいつく健闘を見せた。
バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド
レゼルヴ・ムートン・カデ・ポイヤック 2021
平均点85.5(山本82/柳澤89/松田86/等々力85)4位
産地/フランス:ボルドー ポイヤック
使用品種/カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド
希望小売価格/5,800円
シャトー・ラトゥール・マルティヤック 2018
平均点90.25(山本85/柳澤92/松田92/等々力92)2位
産地/フランス:ボルドー ペサック・レオニャン
使用品種/カベルネ・ソーヴィニヨン60%、メルロ32%、プティ・ヴェルド8%
希望小売価格/8,000円
KWV(ケイ・ダブリュー・ヴィ)
メントーズ オーケストラ 2021
平均点89.5(山本92/柳澤90/松田88/等々力88)3位
産地/南アフリカ:西ケープ州
使用品種 カベルネ・ソーヴィニヨン39%、プティ・ヴェルド29%、カベルネ・フラン12%、マルベック10%、メルロー5%、カルメネール5%
希望小売価格:4,400円
山本「タイトでフレッシュな酸と果実が主体。プラムやカシスの華やかな印象の香りに、トマト、ドライハーブ、スターアニスの香りが深みを与えている」(予想価格6,500円)/柳澤「シナモンやリコリスといったスパイスのトーンも。充実感のある豊かな味わいで、タンニンからの苦みが余韻に。今飲んでおいしいワイン」(予想価格3,000円)/松田「味わいが立体的。タンニンは豊かだがキメが細かく、上品。伸びやかな酸が厚みのあるタンニンをより引き立てる」(予想価格9,200円)/等々力「ユーカリのような青いメントールが香る。酸、タンニン、香りの構造がどれもしっかりし、バランスがとれている」(予想価格4,000円)
ロバート・モンダヴィ
カベルネ・ソーヴィニヨン ナパ・ヴァレー 2021
平均点93.25(山本95/柳澤95/松田93/等々力90)1位
産地/アメリカ カリフォルニア/ナパ
使用品種/カベルネ・ソーヴィニヨン
希望小売価格 8,415円
Flight 3: 後半の部で、南アフリカワインがついに最高得点獲得!

左から:ブレッド&バター/カベルネ・ソーヴィニヨン 2023、ケイ・ダブリュー・ヴィ/カセドラル・セラー カベルネ・ソーヴィニヨン 2022、カルベ/マルゴー 2020
ブレッド&バター
カベルネ・ソーヴィニヨン2023
平均点87.5(山本78/柳澤95/松田89/等々力88)3位
産地/アメリカ:カリフォルニア
使用品種/カベルネ・ソーヴィニヨン100%
希望小売価格/3,980円
KWV(ケイ・ダブリュー・ヴィ)
カセドラル・セラー カベルネ・ソーヴィニヨン 2022
平均点93.75(山本95/柳澤100/松田90/等々力90)1位
産地/南アフリカ/西ケープ州
使用品種/カベルネ・ソーヴィニヨン100%
希望小売価格/2,700円
山本「引き締まった酸、ボリューム感あるアルコール、フレッシュな黒果実のニュアンスが、ドライでタイトな印象に。集中力や凝縮感があり、食欲をかきたててくれる」(予想価格7,000円)/柳澤「熟度の高いプルーン、アメリカンチェリー、セージ、杉、タバコなどが穏やかに香る。余韻が長くエレガント。酸が高く収れん性のあるタンニンも豊富なので、より熟成させてから飲んでも◎」(予想価格8,000円)/松田「香りは穏やかながらスパイスが広がり、厚みのあるキャラクターであることが分かる。アタックはスムースで、タンニンはグリップがしっかり。余韻が長く、酸もエレガントに続く」(予想価格7,500円)/等々力「スモーキーな香りの後に、重みのあるドライトマト、そしてスパイスが続く。やや甘味と軽い酸のある味わいにもまた、シナモンやクローブなどのスパイスを感じる」(予想価格5,000円)
カルベ
マルゴー 2020
平均点88.5(山本85/柳澤90/松田87/等々力92)2位
産地/フランス :ボルドー マルゴー
使用品種/カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、マルベック、プティ・ヴェルド
希望小売価格/5,230円
「試飲を終えて」
ソムリエたちが南アフリカ(ケイ・ダブリュー・ヴィ)の特長を再確認
ケイ・ダブリュー・ヴィ(以下:KWV)は、1918年に発足した「南アフリカブドウ栽培協同組合(Kooperatieve Wijnbouwers Vereniging Van Zuid-Afrika)」であり、政治動乱を乗り越え南アフリカのワイン産業発展に尽くしてきた。1997年に株式会社へと転換され、さらに世界のニーズを捉えつつ、協同組合ならではの安定した品質と供給を守る。
今回、登場した全11本のうち、南アフリカ産ワイン3本はすべて、南アフリカの顔とも言うべきKWVのアイテムであった。産地を見事「南アフリカ」と回答したソムリエもいれば、「きちんとしたシャルドネだからブルゴーニュ」「このタイプのボルドー系品種なら、きっとボルドー」とフランスを予想したソムリエもいたほどだ。そして、チリやアメリカを予想した場合も、概ね予想価格はかなりの高額。KWVのワインには、革新性をことさらにアピールするような奇抜さがなく、「伝統国のワインを思わせるオーセンティックなスタイル」「伝統国のワインを飲み続けた消費者にも愛される、新世界の高級ワイン路線」に近いことが証明されたといえる。
試飲終了後、全ワインの銘柄や情報がオープンとなり「ええ?南ア産が3本も入ってた?」「赤ワイン1位が、南ア??」と感嘆の声を上げていたソムリエたちの声を拾ってみよう。
等々力「今回登場した南アフリカのワイン3本は、価格とクオリティを考えると、どれも素晴らしいコスト・パフォーマンスでした。とくに白のシャルドネと、赤のカセドラル・セラー カベルネ・ソーヴィニヨンが2千円台と聞かされてビックリ」
柳澤「今日は、すべての情報開示前に販売価格だけ教えてもらえましたよね。その時点で安さに驚きつつ、評価の点数もコスパ重視寄りに見直すことができました」
山本「ワイン造りの歴史が長い南アフリカは他国に比べて樹齢が古いので、果実味の熟度がしっかり、引き締まった酸もしっかり。どのワインにも活気に満ちた味わいが共通しています」
松田「どれほど酸が豊かでも、味わいにきちんと溶け込んでいるのが南アワインの特長。だから、強い酸を苦手とするビギナーにもやさしい。もちろんフルーティでエレガントだし、誰が飲んでもおいしい、という」
山本「果実味を含めた全体のバランスが秀逸なのも、南アらしさ。それがこの金額で入手できるのは、南ア以外の産地ではなかなか考えられません」
柳澤「今回登場した南ア産は白も赤も樽で熟成されていたので、今日のテーマのひとつ『今飲んでもおいしい』との条件に合致していましたね」
松田「樽熟成で、飲み頃で……どうしてこの価格を実現できるのか、とにかく不思議です」
山本「そういえば、ワイン業界重鎮のとある大先生が『カベルネ・ソーヴィニヨンのキャラクターを忘れかけたら、南ア産を選んで』とおっしゃっていたんです」
柳澤「世界中でワインの表現が幅広くなっていくなか、南アでは品種特性という基本がきちんと尊重されているのでしょう」
等々力「近年は物価が上がり、ワインを飲む人は価格に対してよりシビアな姿勢をとるようになりました。そんな時代だからこそ、KWVのワインのように優れたコスパを実現してもらえると、心強いアピールポイントとなりますね」
