文/山田 靖
ローヌワインを理解する最短距離は、地図を見ることでも、教本を読むことでもなく、“ギガルを飲むこと”なのかもしれない──。そんな実感を持った夜だった。

5月22日、「THE CELLAR Toranomon」で開催されたセミナー「ギガルを通しローヌ主要産地を紐解く」。講師はワイン講師の紫貴あきさん。定員20名の回が2回行われたこの会(ちなみに募集開始から数時間で定員の大人気)は、単なる試飲セミナーというより、“ローヌという土地の物語”を旅するような体験だった。最初に印象的だったのは、スクリーンに映し出された北ローヌの断崖絶壁。最大斜度60度。トラクターも入れず、すべて手作業。ローマ時代から続く石垣が、いまも畑を支えているという。
「これ、ほぼ人間の執念です」
紫貴さんがそう笑うと、会場から小さなどよめきが起こった。
確かに、北ローヌは“優雅なワイン産地”というより、“英雄的農業”の世界だ。最大で時速100kmにも達する北風ミストラルが吹き荒れ、枝が折れ、土が流される。それでも風が湿気を吹き飛ばすことで病害を防ぎ、ブドウに驚異的な凝縮感を与える。
つまり、過酷さそのものが品質を生む土地なのだ。






そして、その北ローヌを世界レベルの存在へ押し上げたのが、E.ギガルである。
1946年、創業者エティエンヌ・ギガルは、当時ほとんど見捨てられていたコート・ロティの畑を引き継いだ。現在では“ローヌの帝王”と呼ばれる存在だが、その背景には、3世代にわたる異常なまでの品質への執念がある。
とくに興味深かったのが、“AOCローヌ”に対する考え方だ。
一般的にAOCコート・デュ・ローヌは、気軽な日常ワインという印象が強い。しかしギガルは違う。南ローヌの厳選ブドウを用い、毎日50〜80ものサンプルを試飲し、選ばれるのは1%未満。ヴィラージュ格や著名クリュのブドウまで使用しながら、「シンプルなAOCでグランヴァンを造る」という哲学を貫く。
この話を聞いたあとに飲む「コート・デュ・ローヌ ロゼ 2023」は、確かに“ただのロゼ”ではなかった。淡い色調なのに、芯がある。短時間のスキンコンタクトによる繊細さと、ローヌらしい厚みが同居している。
“帝王の日常”という表現が、妙にしっくり来る。
続いて供された「サン・ジョゼフ・ブラン “リュー・ディ” 2023」は、マルサンヌとルーサンヌによる北ローヌ白の魅力を体現する一本だった。砂、石、粘土が複雑に絡み合う単一区画。芳醇なのに、重くない。ミネラルがワインの骨格を引き締めている。
紫貴さんは、「北ローヌの白は、ブルゴーニュ好きほどハマる」と語っていたが、その意味がよく分かる。
そして会場の空気が明らかに変わったのが、「コンドリュー “ラ・ドリアーヌ” 2023」が注がれた瞬間だった。ヴィオニエ100%。白桃、アプリコット、スミレ、白い花──香りがグラスから“立ち上がる”というより、“押し寄せる”。
辛口なのに、どこかデザートワインのような官能性がある。
「これを飲むと、“ヴィオニエってこういう品種だったのか”と価値観が変わるんです」
その言葉に、多くの参加者が深くうなずいていた。

後半は赤へ。
「サン・ジョゼフ・ルージュ “リュー・ディ” 2021」は、古樹シラーならではの深みと滑らかなタンニンが印象的。過酷な斜面で育つことで、逆に絹のような質感になるという説明が面白い。
そして締めは、やはり「コート・ロティ “ブリュンヌ・エ・ブロンド” 2020」。
シラー95%にヴィオニエ5%。
黒ブドウに白ブドウを混醸することで生まれるスミレの香り。力強いのに、香りはどこまでも優雅。北ローヌを代表するワインとして世界中のソムリエが推す理由が、一口で理解できた。
この日のセミナーで印象的だったのは、単に「高級ワインを飲んだ」という満足感ではない。
なぜギガルがローヌの帝王と呼ばれるのか。その答えが、畑、風、石垣、樽、そして3世代にわたる人間の情熱によって立体的に見えてきたことだ。
ローヌワインとは、土地の厳しさを、人間の技術と執念で美しさへ変える文化なのだと。
そしてギガルは、その文化を世界に伝える“翻訳者”なのだと思う。
そして、セミナー終了後は、「THE CELLAR Toranomon」のギガルフェア開催場所に移動し、紫貴さんのさらなる解説やお話をしながら、参加者が好きなギガルをその場で購入もでき、大いに盛り上がったセミナーの開催でした。
ちなみに、「THE CELLAR Toranomon」でのギガルフェアは今月末の5月31日まで開催している。
東京以外の方、あるいはお店に行くには遠い方はECサイトでもお店と同じ参考価格の15%OFFで販売中。15%OFFの値段は相当お値打ち価格であることは付け加えておこう。
「THE CELLAR Toranomon」ギガルフェアの記事は下記
https://www.whynot-web.jp/wine-eguigalfair20260403/
