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WINE

家族で受け継ぐメゾン・ボワゼルを訪ねて

取材・文/久保 ゆかり 写真/小松勇二

interview & text by Yukari Kubo photo by Yuji Komatsu

エペルネの中心、アヴェニュー・ド・シャンパーニュに面した1834年創業の家族経営メゾン、ボワゼルを訪ねました。長い歴史を刻むメゾンの歩みと、シャンパーニュ造りについて、マダム・ボワゼルに話を伺いました。

1940〜50年代にシャンパーニュの配達に使われていた、Renault Juvaquatre(ルノー・ジュヴァキャトル)。現在もメゾンの正面で世界中から訪れる人を迎えています

シャンパーニュを支える女性たち

シャンパーニュの歴史を振り返ると、その発展を支えてきたのは、数多くの女性たちでした。

19世紀には、夫を亡くした女性がメゾンを引き継ぎ、20世紀には二度の戦争で多くの男性が戦地へ赴く中、女性たちが畑を守り、ワインを造り、家族とメゾンを支えました。

ヴーヴ・クリコ、ルイーズ・ポメリー、リリー・ボランジェは、シャンパーニュの発展に大きく貢献した女性たちです。

その歩みは、現代にも続き、ボワゼルやテタンジェ、デュヴァル=ルロワでは女性が重要な役割を担い、エリーズ・ブジーのような新世代の女性グローワーも、それぞれの感性を生かしたシャンパーニュ造りに取り組んでいます。

ボワゼルの5代目としてメゾンを支えてきたのが、エヴリーヌ・ロック=ボワゼル(Evelyne Roques-Boizel)です。現在は、息子のフロランとリオネルが6代目としてメゾンを率いています。

華やかさよりも、凛とした芯の強さが印象的なエヴリーヌ

シャンパーニュの礎を知る
まずはシャンパーニュ地方の地図を前に、この土地がどのように形づくられてきたのか、その成り立ちについて話を聞きました。

Evelyne:「白亜紀、約9000万年前。この一帯は、温暖な海の底にありました。海洋生物の殻などが長い年月をかけて堆積し、白亜質の地層が形成されていきます。その後、地殻変動や長い年月の侵食を経て、現在の丘陵地形が形づくられました。」

こうして生まれた白亜質の土壌は、シャンパーニュのテロワールを特徴づける重要な要素となっています。

Yukari:「普段感じているミネラルや酸が、遠い地質の歴史につながっているんですね。シャンパーニュに"チョークを感じる"という感覚が、少し身近になったように感じます。」

※以下、Evelyneは「E」、Yukariは「Y」と表記します。

テロワールの話から醸造へ

次に、自社畑や契約栽培農家が育むさまざまなテロワールについて話を聞きました。

E:「私たちが所有する畑は約7haで、総生産量の約10%。多くのブドウを契約栽培農家から調達しています。

畑は、代々相続される中で細分化されていくので、栽培農家さんは昔より増えましたが、長く良い関係が続いていますよ」

話は、3つの主要品種へと続きます。

E:「シャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエ。それぞれに個性があります。

シャルドネは繊細な酸とミネラル、ピノ・ノワールは果実の厚みと骨格、ムニエはふくよかな果実味とやわらかな口当たりが特徴です」

こうした品種それぞれの個性が、テロワールや造り手の技と重なり、ボワゼルの味わいを形づくっていきます。

E:「収穫期は、シャンパーニュ地方全体に10〜12万人もの季節労働者が集まります。わずか2〜3週間のために多くの人が動き、街は普段とは違う活気にあふれていますよ」

そして今、シャンパーニュ造りにも、気候変動の影響が表れています。

E:「今年は本当に暑いですね。すでに5月、6月も熱波に見舞われていて、例年より収穫時期が早まると思います。また、収穫は当日の天候に左右されるので、タイミングの見極めが大事です」

マダムの熱い話を聞きながら、醸造所へと進みます。

ステンレスタンクや大小さまざまな木樽が並ぶ醸造スペース

従来は床や壁にあったホースがこんなに綺麗にまとまっています

収穫から醸造、瓶内二次発酵、熟成、デゴルジュマンまで。シャンパーニュは、いくつもの工程と長い時間を経て生まれます。

その中でも、重要な工程の一つが、アッサンブラージュです。

E:「アッサンブラージュは、毎年1月から4月にかけて行います」

Y:「アッサンブラージュでは、どんなことを一番大切にされていますか?」

E:「大切なのは、味わいのハーモニーとバランスです。ヴァン・クレール(ベースワイン)を繰り返しテイスティングして、みんなで意見を交換しながら、決めていきます。もちろん、息子二人と私も参加していますよ。」

そんな姿から、家族経営のメゾンらしさが伝わってきました。

Y:「エヴリーヌさんにとって、ボワゼルらしい味わいを一言でいうと、どのように表現しますか?」

E:「自分が好きな味わいが、ボワゼルのスタイルなの」

知識として学んできたことが、実際の現場を歩くことで、シャンパーニュの造りが少し立体的に見えてきました。

ライトアップされた地下カーヴへ続く階段。2018年に改装され、ビジターを受け入れるようになりました

時を眠らせる地下カーヴ

続いて案内されたのは、白亜質の地下カーヴです。

ボワゼルでは、創業以来大切に保管してきたヴィンテージ・コレクションを「Archives liquides(液体のアーカイブ)」と呼んでいるそうです。

「液体のアーカイブ……?」と、その言葉の意味を想像していると、長い年月を経たヴィンテージ・コレクションを指す言葉だと分かりました。なんともシャレた呼び方です。

カーヴには、創業年の1834年をはじめ、1929年、1945年などのヴィンテージが眠っています。

なかでも、エヴリーヌが「素晴らしいヴィンテージ」と何度も語っていたのが、1929年。ボワゼル初のBlanc de Blancsが造られた年で、そのボトルは現在も鍵のかかったTrésorのカーヴに大切に保管されています。 長い年月を経たボトルを目の前にすると、歴史のロマンを感じました。

「宝」を意味するTrésor(トレゾール)。「Archives liquides(液体のアーカイブ)」が眠る、ボワゼルの特別なカーヴ。

ここには戦争という暗い記憶も残されています。

E:「1945年はフランスの終戦の年で、物資不足から青いガラス瓶が使われたものもあったのですよ」

そして、さらに時代を遡ると、第一次世界大戦中の1917年の爆撃時には、ボワゼルがカーヴを負傷者や避難民のために開放した記録も残されています。

テイスティングルームのキャビネットの中に飾られた歴史の一枚

フィネスを味わう時間

地下カーヴの見学を終えると、いよいよテイスティングです。

グラスが並ぶと、エヴリーヌがシャンパーニュの楽しみ方について語りはじめました。

E:「最初から香りを探そうとしなくてもいいのです。まずは、そのシャンパーニュがもたらす喜びを感じてください。

そして、大切なのは、余韻です。香りや味わいも、もちろん大事ですが、その後に続く余韻まで含めてシャンパーニュを楽しんでほしいのです。

そのすべてが揃うと、一緒に飲む人とのつながりや感謝を実感できるはずです」

#La Côte Blanc de Blancs Premier Cru

Blanc de Blancs
Technical Data
シャルドネ100%。クリュはChouilly、Le Mesnil-sur-Oger、Avize、Vertus。リザーヴワイン20%、3年熟成、ドザージュ6g/L。
Yukari’s Tasting Notes
透明感のあるミネラルに、白い花や柑橘の清らかな香り。シャルドネらしい繊細さと伸びやかな酸が心地よく、口に含むと凛としたミネラルが広がります。フィニッシュにはほのかな塩味が残り、すっと長く伸びていくような余韻があります。
Pairing
そろそろ日本食が恋しくなっていた頃、すぐに思い浮かんだのは、海老の天麩羅に塩。レモンを添えたイカのフリット・ミストも良さそう。

#La Montagne Blanc de Noirs Premier Cru

Blanc de Noirs

Technical Data
ピノ・ノワール100%。クリュはCumières、Mailly、Chigny-les-Roses。リザーヴワイン20%、3年熟成、ドザージュ6g/L。
Yukari’s Tasting Notes
ふくよかな果実味がありながら、口当たりはしなやか。ピノ・ノワールらしい果実の厚みと骨格がありながら、繊細な質感が重なり、力強さの中にも軽やかなフィネスがあります。ピノ・ノワールの豊かさを感じながらも、どこかエレガント。
この味わいを、エヴリーヌは「レースのドレスのよう」と表現していました。繊細でありながら、しなやかな強さを感じさせる、印象的な言葉でした。
Pairing
フランスのビストロでお馴染みの牛肉のタルタルを合わせたい。ふくよかな果実味としなやかな質感。思わず笑顔になりそうです。

# Joyau 2012


Prestige Cuvee 
Technical Data
ピノ・ノワール60%、シャルドネ40%。ピノ・ノワールはMailly、Cumières、Chigny-les-Roses、シャルドネはAvize、Chouilly、Vertus。10%を古樽で醸造、10年熟成、ドザージュ4g/L。
Yukari’s Tasting Notes
熟成による複雑な香りに、ブリオッシュやはちみつ、ナッツのニュアンス。奥行きのある味わいときめ細やかな質感が広がり、時間とともにゆっくりと表情を変えていきます。長く美しい余韻が続きます。
Pairing
パリの老舗キャビア店、Caviar Kaspiaへドレスアップして出かけた日のことを思い出します。ベルーガのキャビアの繊細な塩味とJoyau 2012。日本で合わせるならHAL CAVIARかしら?

3つのシャンパーニュを並べて味わうことで、それぞれの個性が鮮やかに浮かび上がりました。
そして、エヴリーヌの言葉が少しずつ腑に落ちていきました。
シャンパーニュを学ぶようになってから、テイスティングでは、外観、香り、味わいと、決まった順序で確かめることが当たり前になっていました。

だからこそ、「まずは、そのシャンパーニュがもたらす喜びを感じてください」という言葉が、新鮮に響きました。
知識や分析より先に、まず目の前の一杯を楽しむ。そんなシンプルな喜びを、改めて思い出させてもらった気がします。

フレンドリーなスタッフが、笑顔でお待ちしています

中庭のテラスで美味しいシャンパーニュが飲めます


見学の問い合わせ・申し込みは、Champagne Boizel 公式サイトへ
http://www.boizel.com

輸入元 ピーロート・ジャパン(PIEROTH JAPAN)
http://pieroth.jp/

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久保ゆかり/YUKARI KUBO

シャンパーニュライター・エディター。CIVC認定シャンパーニュスペシャリスト、JSAワインエキスパート、JSA SAKE DIPLOMA。フランス・シャンパーニュ地方のワイナリーを訪ね、生産者への取材を重ねながら、造り手の想いや土地の個性を伝える記事を執筆。シャンパーニュを中心に、ワイン産地の魅力を伝えている。シャンパーニュをこよなく愛し、愛犬のエクレア(ミニチュアダックス)とのお散歩が日課。

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