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50年を超える歴史が、いま動き出す。ポンジー・ヴィンヤーズ、2024年から始まる新章

文/山田 靖

長く愛されてきたワイナリーが、大きく変わる。そんな節目に立ち会えるヴィンテージは、そう多くない。

オレゴンを代表するワイナリー、ポンジー・ヴィンヤーズにとって、2024年はまさにその年だ。畑ではブドウの木を健やかにする新しい剪定法を採用し、醸造所には一粒ずつブドウを選び分ける最新設備を導入。さらに新しい醸造責任者のもと、50年以上守ってきたスタイルを、より鮮やかに表現する体制が整った。

つまり2024年ヴィンテージは、単なる「今年の新作」ではない。ポンジーの新しい時代を知るための、最初のワインなのである。

一家の冒険から始まった、オレゴンの先駆者

ポンジーの物語は1970年に始まる。

カリフォルニアで機械エンジニアとして働いていたディック・ポンジーと妻ナンシーは、好んで飲んでいたフランス・アルザス地方のワインに魅せられ、「自分たちでもワインを造りたい」と考えるようになる。

しかし、理想とする味わいを生むには、カリフォルニアは暖かすぎる。そう考えた夫妻は家を売り、3人の子どもと犬、猫をトラックに乗せて北へ向かった。たどり着いたのが、オレゴン州のウィラメット・ヴァレーだった。


当時、オレゴンでワインを造る人はほとんどいなかった。どのブドウ品種が土地に合うのかも、まだわからない。ポンジーは州で3番目となるワイナリーとして、手探りでブドウを植え始めた。

その挑戦から、この土地を代表するピノ・ノワールが育ち、ポンジーはアメリカで初めてピノ・グリを商品化。やがて娘たちがワイナリーを引き継ぎ、ポンジー家はオレゴンワインの発展を牽引していった。

ブルゴーニュに似ている。でも、同じではない

ウィラメット・ヴァレーは、緯度でいえばフランスのボルドーに近い。一方、主要品種であるピノ・ノワールとシャルドネからは、ブルゴーニュを連想する人も多いだろう。

ただし、ここで造られるワインは、ブルゴーニュのコピーではない。

オレゴン西部は秋から春にかけて雨が多いが、ブドウが成長する夏は晴れて乾燥する。日中は暖かく、夜になると気温が下がるため、ブドウは果実の風味を蓄えながら、ワインの爽やかさを生む酸を保つことができる。

そのためピノ・ノワールには、チェリーやベリーを思わせる明るい果実味と、軽やかな透明感が共存する。シャルドネは果実の豊かさを持ちながら、口の中が重くなりすぎず、キリッとした酸や塩味を思わせる余韻が残る。

フランスワインのような繊細さと、アメリカワインらしい果実のわかりやすさ。その両方を楽しめることが、オレゴンワインの魅力なのだ。

ブドウの根が語る、ローレルウッドの個性

ポンジーの拠点は、ローレルウッド・ディストリクトと呼ばれるワイン産地にある。ワインのラベルに記される「AVA」とは、その土地ならではの気候や地形などが認められた、アメリカの公認ブドウ栽培地域のことだ。

ローレルウッドの土壌は、表面が細かく柔らかな砂質で、その下に火山活動に由来する硬い玄武岩の層がある。

若いブドウの木は柔らかな表土に根を張り、ワインにフレッシュな果実味をもたらす。樹齢を重ねた木は、やがて硬い地層へ深く根を伸ばす。そこから生まれるピノ・ノワールには味わいの奥行きときめ細かな渋味が、シャルドネにはミネラル感や塩味を思わせる風味が加わる。

ポンジーの畑には、1970~80年代に植えられた古木も残されている。長く生きた木だからこそ、その土地の個性をより深くワインに映し出せる。それは、ポンジーが半世紀をかけて守ってきた大切な財産である。

ボランジェが見いだした、次の50年

2021年、ポンジーはシャンパーニュの名門ボランジェを擁するグループ・ボランジェの傘下に入った。

ボランジェが高く評価したのは、単に歴史が長いからではない。古木の残る畑、土地を尊重するワイン造り、そしてピノ・ノワールに対する深い理解。長い時間をかけて投資先を探した末、「未来に残すべきワイナリー」としてポンジーを選んだのである。

その後、畑と醸造所の両方で改革が始まった。

2023年には、世界的な剪定のスペシャリストであるマルコ・シモニットを招聘。木の中を流れる樹液の通り道を傷つけない剪定法を採用した。人間にたとえるなら、血流を整え、木が本来持っている生命力を引き出すようなものだ。衰えが見え始めていた樹齢50年を超える古木にも、再び活力が戻ったという。

醸造所には、色や形を読み取り、状態のよいブドウだけを一粒ずつ選ぶ光学式選果機を導入。小型タンクも増やし、畑の区画ごとの違いを、より細かくワインに表現できるようになった。

そして2024年、新醸造責任者マックス・ブルーニングのもとで、これらの改革が初めてひとつのヴィンテージに結実した。

古いものを捨てて、新しくしたのではない。受け継いだ個性を、より澄んだ味わいで届ける。そのための変化だった。

ポンジーヴィンヤーズ社長でありグループ・ボランジェUSAの
執行副社長であるジャン・バティスト・リバイユ
(Jean Baptiste Rivail)さんが3月に来日した。

4本で始まる、ポンジーの新章

2026年6月に日本で発売される2024年ヴィンテージ(一部9月発売予定)は、白2本、赤2本。料理やシーンから選んでも楽しめる。
2024年ヴィンテージは、春の低温によって芽吹きと開花が遅れた一方、夏から秋にかけては天候が安定。収穫を急ぐ必要がなく、酸を保ちながら果実をじっくり成熟させることができ、そこに、畑と醸造所で進めてきた改革が重なった。

ピノ・グリ ウィラメット・ヴァレー 2024

参考価格:4,510円 (税込み)
畑:60% Laurelwood District AVA の自社畑 40%Willamette Valley の自社畑 100%自根、

最も古い区画は1980年代前半の植樹、全てLIVE認証
醸造:温度管理(13℃以下)されたステンレスタンクで発酵、マロラクティック発酵は行わず、

ブドウ本来の明るく溌溂とした個性をいかした醸造。
洋梨やレモンの明るい香りと、爽快な酸が魅力。白身魚のカルパッチョ、魚介のマリネ、胡麻豆腐などと合わせたい。最初の一杯にも向く、ポンジーの歴史を気軽に体験できる白ワインだ。

シャルドネ ローレルウッド ディストリクト ウィラメット・ヴァレー 2024

参考価格:7,040円(税込) ※9月発売予定
畑:Laurelwood District AVA の4つの自社畑
醸造:100%MLF フレンチオーク樽(25%新樽)
手収穫後、光学選別で選果。土着酵母での発酵は、澱と共に10ヶ月、
ラッキング後に8ヶ月ステンレスタンクにて熟成。
ライムや白い花の香りに、アーモンドやキャラメルのような穏やかなコクが重なる。
帆立のソテーや鶏肉のクリーム煮、銀鱈の西京焼きなど、まろやかな旨味を持つ料理によく合う。

タヴォラ ピノ・ノワール ウィラメット・ヴァレー 2024

参考価格:4,675円 (税込み)
畑:自根の古樹を含む自社畑ブドウ(80%)、ウィラメット・ヴァレーの厳選された買いブドウ(20%)を使用
醸造:ブドウは全て除梗し、光学選別機で選果、5日間の低温浸漬。
発酵は10日間行われ、一部はフレンチオーク樽(20%新樽)、
残りはステンレスタンクにて熟成、澱引きをし、グラヴィティ・フローで瓶詰。
プラムやチェリーを思わせるジューシーな果実味があり、

ローストチキン、豚肉のグリル、焼き鳥など日常の食卓に寄り添ってくれる。

ピノ・ノワール ローレルウッド ・ディストリクト ウィラメット・ヴァレー 2024

参考価格:7,700円 (税込み)

畑: Laurelwood District AVA のブドウを 100%使用
(83%が自社畑、17%が契約畑から購入)
全てLIVE(Low Input Viticulture & Enology)認証で Laurelwood 土壌

醸造:手収穫後、光学選別で選果。土着酵母での発酵は、
18日間にわたり小さなロットで行われ、発酵開始から発酵ピーク時はポンプ・オーヴァー、
その後発酵終了につれてパンチダウンに切り替え。
フレンチオーク樽(30%新樽)で10ヶ月熟成、その後、
澱引きをしてグラヴィティ・フローで瓶詰。
もう一歩深くポンジーを知るならこの1本。ブルーベリーやダークチェリー、ハーブ、
白胡椒などの香りが重なり、なめらかな口当たりの奥に複雑な味わいが広がる。
鴨や仔羊、茸を使った料理とゆっくり楽しみたい一本だ。

歴史が変わる瞬間を、グラスの中で

2024年ヴィンテージを飲むために、ポンジーの長い歴史や専門的な醸造法をすべて知っている必要はない。

ただ、「半世紀以上続くワイナリーが、自分たちらしさを守りながら、もう一度進化しようとしている」。そのことを知るだけで、グラスの向こうに見える景色は少し変わる。

古木を健やかにする剪定。よい果実だけを選ぶ最新設備。土地の違いを細かく表現する醸造。そして、それらを可能にしたグループ・ボランジェの投資。すべてが初めて揃った2024年は、ポンジーにとって明確なターニングポイントである。

後になって「あの年から変わった」と語られるワインがある。ポンジーの2024年は、その変化の始まりを、いま確かめられるヴィンテージなのだ。

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山田_yamada 靖_yasushi

Why not?マガジン編集長。長くオールドメディアで編集を担当して得たものをデジタルメディアで形造りたい。座右の銘は「立って半畳、寝て一畳」。猫馬鹿。年一でインドネシア・バリのバカンスはもはやルーティン。

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